感性の劣化


 6月28日の報道を見ていると、白浜アドベンチャーワールドのパンダ4頭が、中国に返還されるニュースがかなりの時間や紙面を割いて報道されていた。ニュースを見ていると、最後にパンダに会うために来園し、「ありがとう、ありがとう」のオンパレードである。そして、多くの人が大粒の涙を流していた。
 ここからは、炎上覚悟の内容である。どうも理解できないのだ。子どもがパンダに愛着を持ち、中国に帰ることに涙するのはわかるが、大の大人が、ハンカチ片手に「ありがとう、ありがとう」と言って涙を流す。人が、何に喜怒哀楽を感じ、涙を流すかはその人の勝手なのだが、パンダが中国に帰るからと言って、大粒の涙を流すことは、私には無い。強いて言えば、これほど大きな感動を日本人(私にではないが)に与えてくれてありがとうという感謝の気持ちを少し持つぐらいだろう。

 パンダの帰国にこれだけ悲しみを感じ、大粒の涙を流すほどの感性があるのなら、なぜ、世界で起こっている様々な不幸な出来事に涙を流さないのかと思うのだ。ひょっとしたら私の知らないところで涙を流されているかもしれないが、そうであるならば、ごめんなさいと言うほかないが。例えば、ガザの紛争。今まで何万人という人が亡くなっている。その中には、何の罪もない子どもたちも多くいる。子どもを亡くして悲嘆にくれる親、怒りをあらわにする関係者、泣き叫ぶ親、そういう映像を見るたびに心に大きな棘が刺さり、1日も早くこの紛争が止まることを本当に心から願うのだ。それと共に、攻撃をやめないイスラエルのネタニヤフにも大きな怒りを覚える。このガザの人たちに連帯の意思表示と紛争の早期終結に向けて、行動を起こしている日本人はどれだけいるのだろうか。個人でもできる活動には、ユニセフや国境なき医師団などへの寄付活動もある。

 名古屋からこの日のために、白浜まで来た女性のインタビューが報道されていた。「私の人生は、パンダ命」らしい。それも価値観の多様性という観点からすれば、オーケーな話なのだろう。しかし、一方で、名古屋から白浜まで来る行動力と資金があるならば、寄付活動や抗議行動にも参加できるだろうと思ってしまうのだ。

 パンダを通じて、中国との距離感が縮まることが狙いのパンダ外交であるが、その中国は、日本人をスパイ容疑で拘束している国であり、尖閣諸島を自領と主張して、毎日と言っていいほど海上保安庁との攻防を繰り返している国なのである。日本の領土・領空・領海を脅かす国なのだ。南鳥島でレアアースが大量に発見されれば、さっそくその領海に中国の艦船を派遣するような国なのだ。パンダが帰るからと言って、ワーワー騒いで大粒の涙を流しているような状況ではないだろう。この映像を見て、中国首脳部は、「なんて日本人は馬鹿なのか。これほど与しやすい国民もいないだろう」とほくそ笑んでいるのではないかと思う。

 マスコミももっと考えて報道すべきだ。パンダには何の罪もないが、それを取りまく大人たちの思惑もしっかりと報道すべきだろう。マスコミも含め、日本人の感性が劣化しているのではないかと思ってしまうのだ。


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