9月30日の新聞各紙は、東京大学の新総長に藤垣裕子氏が選出されたことを報じた。東京大学の歴史において初の女性総長誕生であり、大きな注目を集めている。今後は文部科学大臣の任命を経て、来年4月に第32代総長へ就任する予定だ。
初の女性総長選出は、ジェンダー平等の観点からは非常に好ましい出来事と言える。しかし今回の選考をめぐっては、学内で少なからぬ物議も醸している。そもそも国立大学法人の総長選考は、①選考基準の策定・公表 → ②候補者の推薦受付 → ③一次選考(候補者の絞り込み) → ④学内意向聴取(意向投票・所信表明) → ⑤最終選考 → ⑥任命申出と決定、というプロセスで進められる。
問題視されているのは、④の段階である教職員の意向投票結果と、⑤の最終選考結果とのギャップだ。上位3名による投票で、染谷隆夫氏が1,107票を獲得し過半数(得票率51.0%)に達していたのに対し、最終的に選出された藤垣氏は553票(同25.5%)にとどまった。この大差を覆す形で藤垣氏が選出されたことから、選考会議の意思決定プロセスが「ブラックボックス化しているのではないか」という批判が噴出している。
選考会議の議長を務めた国谷裕子氏(元『クローズアップ現代』キャスター)は、「時間をかけて選考を行い、投票後の評決で絞り込んで大多数の賛成で藤垣氏を選出した」「女性であることは選考過程で議論の対象になっていない」と説明した。一方、朝日新聞の報道によると、ある関係者は「なぜ2番手の藤垣氏を選んだのか。東大が抱える山積みの課題に対する取り組みの具体性も乏しい」と不満を口にしている。
なお、今回の選考に関して文部科学省(文科相)は、「個別の大学の選考プロセスや判断結果についてコメントすることは控える」という基本スタンスを崩しておらず、初の女性総長誕生に対する直接的な祝意や期待の表明もなされなかった。
ちなみに、京都大学の総長選出においても、意向投票で6名中3番目だった立川氏が選考会議の全会一致で選出された経緯がある。これらを鑑みると、参考情報とされる「学内意向投票」そのものの位置づけや存在意義に疑義が生じる。平たく言えば、大学教員による投票が「真にふさわしいリーダーを選ぶ機能」を果たせていないと見なされているのか、あるいは選考会議が教員の意思を軽視しているのか、という構造的な問題をはらんでいる。
新総長に選ばれた藤垣氏としても、今後の経営・大学マネジメントは容易ではないだろう。教員の約4分の3が自分以外の候補者を支持していたという現実があるからだ。折しも東京大学では近年不祥事が相次いでおり、現在は「国際卓越研究大学」の認定に向けた重大な審査の渦中にある。学内の求心力を保ちつつ改革を進められるか、極めて前途多難な船出となりそうだ。
同時に選考会議側にも、約2,000名に及ぶ東京大学の教職員、さらには社会全体を納得させられるだけの十分な説明責任と透明性の確保が強く求められている。

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