3月3日に教育新聞の「深掘り」のコーナーで、「高校無償化への期待と懸念 『公立離れ』は進むのか」という記事が掲載された。記事の内容は、
①高校無償化の合意内容
②「全国私学助成をすすめる会」の取組
③文科省の公立高校支援強化表明
④大学教授(専門家)の評価
という内容で、記事としては、オーソドックスな構成だ。この記事で初めて知ったのは、
「一方で、同会(注:全国私学助成をすすめる会のこと)によると、高校生1人当たりの公費支出は公立全日制が約112万円であるのに対し、私学経常費助成から試算すると私立は約36万円にとどまっている。1975年公布の私立学校振興助成法では『できるだけ速やかに(公立の)二分の一とするよう努めること』との付帯決議があり、同会は保護者負担の軽減とともに学校への支援拡充も求めている。」
という内容で、正直「まだ私立高校に金を投じろというの?」「そんな法律の付帯決議があったんだ」と思った。文科省のコメントも
「私学支援拡充分の約4000億円の大半は都市部に入るので都市と地方との格差是正には逆行するが、それをいかに緩和するか前向きに考えていく必要がある。公立高校の魅力を高めていく方策をしっかり考えていきたい」
という内容で、確かに私立高校に金を投じると、都市部に集中するので地方との格差是正という点からすると、文科省の言う通り逆行だなと思う。ただ、公立高校にどのような支援をするのかは、これから「考えていきたい」という内容だ。しっかり考えてもらいたい。
大学教授のコメントは、大阪大学大学院の高田教授である。今後の施策として、
「まず高校が義務教育に近い存在になっている中で『適格者主義』の考え方を見直すべきだ」
「少子化が加速する中で公立・私立全体でどのように定員削減を進めるか、進路のセーフティーネットをどう確保するか考えるべきだ。定時制・通信制高校やサポート校などの傍流的な学校とメインストリームの学校との関係も検討する必要がある。後期中等教育の制度設計を見直さないまま無償化が広まると、公立と私立で小さくなったパイ(15歳人口)を奪い合うだけになってしまう」
というものであった。教授の指摘は「なるほど」と思うが、この記事は、どこが深掘りされているのだろうか?公立高校の無償化について、今後検討しなければならないのは、
❶お金を投じるべき私立高校を如何に選定するかということ。つまり、経営に不正があったり、中退者が大量に出たり、いじめによる重大事案が頻繁に起こっている私立高校にも金を投じるのかという問題だ。不健全な経営や教育内容が十分でない私立高校に税金をつぎ込むのはおかしいだろう。これで参考になるのは、私立大学への助成制度だろう。ご存じのように日本大学や東京女子医科大学への助成は止まっている。このような制度設計が必要だ。
❷少子化が進む中で、公立・私立の定員削減をどのように進めるかだ。大阪府のように公立高校の半数が定員割れを起こすようでは、消滅していくのは公立高校に限られる。公立高校がドンドン少なくなり、私立高校がメインの高校教育で良いのかという問題だ。今年生まれた子どもは72万人で、15年後には高校に入学する生徒が30万人減るのである。この削減をどうするのか。私は公立高校と私立高校の生徒獲得競争を同じ土俵で行うべきだと考えている。すなわち「同日入試」を実施するのだ。現状のように私立高校が先行する入試制度では、どうしても私立高校に生徒が集まる。「同日入試」にすることで、公私を問わず高校が淘汰されていくだろう。
先に述べた全国私学助成を進める会の葛巻事務局長は「私立は施設が豪華で潤沢と言われがちだが、それはごく一部に限られ、大半は人件費などで経営的に厳しく、公立以上に教員不足を抱えている。法人だけでは解決が難しい問題であり、人員配置も含めて環境整備を国に求めていきたい」と述べているが、経営が厳しく十分な教育ができない私立高校には、高校教育から退場してもらえばよい。このような私立高校に無償化で税金を投じる必要はない。❶で述べた制度設計を早く行わなければ、「問題のある私立高校の延命」にしかならない。もし、同日入試が嫌で先に入試を行いたい私立高校には、税金を投じなければ良いのだ。
❸教授が指摘するように、通信制高校に通う生徒が増える中で、「定時制・通信制高校やサポート校などの傍流的な学校とメインストリームの学校との関係も検討する必要がある。」大阪府では、公立高校の定員割れで、受験者の全員合格が進んでいる。ところが、いざ入学すると高校生活が続かずに転退学してしまう生徒が増えているように思う。私が勤めている通信制高校にも秋以降転学者が五月雨式にやってくるのだ。そこで問題なのが、教育の質である。通信制高校にもいろいろなレベルがあると思うが、本当に高卒という資格に値する学力や能力が養えているのかが疑問だ。少なくとも私の学校で実施しているレポートや定期考査は、文科省の高校卒業等認定試験よりは随分簡単である。
教育新聞は、これらの課題について「教育の専門新聞」として、もっと深く提言してほしいと思う。
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