OECDの国際成人力調査が、12月11日に発表された。日本は、フィンランドに次いで好成績を挙げた。読解力2位、数的思考力2位、問題解決能力は、フィンランドと並んで1位だった。この要因については、日本の均一的で高い教育システムや高校・大学への進学率の高さが挙げられている。確かにそうだろうと思うが、このような素晴らしい結果であることを日常生活の中で実感することはあまりないので、ある意味驚きである。
ニュースでは、「喜んでばかりはいられない」と課題も提起されている。日本の好成績をけん引しているのは、若年層であるということだ。それを示したのが、次のグラフである。グラフは、日経新聞から引用させていただいた。
確かに北欧の国々は、数的思考力の頂点が、25歳から34歳、35歳から44歳となっており、日本とはグラフの曲線が大きく異なる。この要因を、専門家はリスキリング(学び直し)の制度の問題と言及している。確かに、社会人なってもう一度学び直そうという制度やトレンドは、日本には乏しい。更に、同志社大学政策学部の吉田教授は、
「北欧諸国が高得点なのは、記事中にあるリスキリングの効果だが、そのリスキリング施策の土台となっているのは積極的労働市場政策だ。これは官主導で、低生産部門から高生産部門への労働力移動を半ば強制的に行うもの。移動のためには新たなスキル獲得が必要になり、ジョブ型であることと相まって、高生産性を可能にしている。」
とコメントしている。「なるほど、こんなシステムが北欧にはあるのか、日本とは大きな違いである」と感じ入った。
ところで、この日本の下降線は、果たしてリスキリングだけの問題だろうか。第一回の国際成人力調査に絡んで、「深い学び」の問題を提起している専門家がいた。日本では、暗記に注力した教育が長年行われ、「思考力・判断力・表現力」というコンピテンシーに関する教育が弱い。ここ10年近くは、「主体的・対話的で深い学び」や「探究学習」を経験した若者が社会に出始めたが、25歳以上の大人はこのような教育を経験していない。特に、「深い学び」と言われる経験をしていないのだ。ここで、浅い学びと深い学びについて京都大学の松下教授が整理されたものを引用する。
★浅い学び
〇授業を、互いに無関係な知識の断片としてとらえる。
〇事実をひたすら暗記する、決まった手続きをひたすら繰り返す。
〇目的もストラテジーも検討することなく勉強する。
★深い学び
〇概念を既有の知識や経験に関連づける。
〇共通するパターンや根底にある原理を探す。
〇証拠をチェックし、結論と関係づける。
〇論理と議論を、周到かつ批判的に吟味する。
というものだ。中学高校の学びというものを振り返ると、大人は浅い学びに近いものを経験したのではないだろうか。深い学びを得た人もいると思うが、それは個々の学習者が深い学びに到達したもので、決して授業者が目的意識的に深い学びに結び付けようとしたものではないだろう。この深い学びに結び付けるのが、「本質的な問い」と「永続的理解」であると松下教授は主張する。「永続的理解」と「本質的な問い」は、次のように整理されている。
★永続的理解とは・・・
「これから数年たって、生徒が詳細を忘れ去った後に、何を理解しておいてほしいか、何を活用できる能力があってほしいか?」
学問の中心にあり、新しい状況に転移可能な理解
★本質的な問いは・・・
永続的理解を促すための学問の本質を問うための問い
というものである。例えば、こんな例がある。
■中学国語
①単元:国文法・用言の活用
②目標:用言の活用を理解し、文法の違いを考えることが、言葉そのものの考察につながることを理解する。
③本質的な問い
「ある」と「ない」で品詞が異なるのはなぜか。
④永続的理解
存在を表す「ある」は、本来「あらず」という打消を伴う動詞であったが、存在すること自体が動作ではないため、現代語では「あらない」がなくなり、「ない」という状態を表す形容詞に取って代わられた。このように、文法は常に変化の中にあり、しかもその変化は、必然と偶然を伴いながら人々に活用され、実生活で用いられるものである。文法の変化は、その時々の言葉の(ひいては人間の)あり様を表している。
■高校社会
①単元:労働力を移民でしのぐ
②目標:グローバル社会における他民族との共存の必要性と困難を説明できる。
③本質的な問い
日本は移民を受け入れるべきか。
④永続的理解
人口減少と国力の低下を食い止めるには移民を受け入れるべきである。しかし、民族のアイデンティティー保持の喪失という問題の克服と不可分である。民族間相互理解と国家、民族のアイデンティティーの尊重を認識する必要がある。
リスキリングの制度の充実とともに、中学―高校―大学と深い学びがどこまでできるかということも、成人力にとっては重要なことではないかと思うのだが、皆さんはどのように考えるだろうか?
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