3月30日、NHKスペシャルで、未解決事件file10「下山事件」が放送された。第一部・第二部とも、見入ってしまった。言わずもがなの事であるが、「下山事件」とは、当時の国鉄下山総裁が、轢死体で発見された事件だが、自殺説・他殺説が入り乱れ、迷宮入りとなった事件である。しかし、今回のNHKの特集では、明らかに他殺説をベースに番組が組み立てられており、一部の再現ドラマはもとより、2部のドキュメンタリーでも、追求できる全てのところまで、この事件を追ったという感がある。行きついた結論は、
①日本を反共の砦とするために、ソ連の謀殺としてアメリカ諜報機関が仕組んだ暗殺であること
②来るべき、朝鮮戦争に国鉄の輸送網を利用するために、国鉄内にいる共産主義者及びそのシンパをパージすること
③国鉄職員に同情的であった下山総裁を①で示した謀殺としながら、排除すること
ということである。事実、下山事件の後の状況を見れば、10万人の国鉄職員の排除は大きな抵抗もなく実施され、朝鮮戦争においては軍事物資や人員の輸送を空前の規模で国鉄が実施している。状況証拠は、明らかにアメリカ諜報機関の犯罪であることを示唆している。そのことに、日本の暗部である右翼児玉氏が絡んでいるのである。児玉と言えば、私が高校生の時に起こったロッキード事件でも起訴された人物として有名だが、この下山事件にも絡んでいたとは知らなかった。
この下山事件は、日本の戦後を決定づけたターニングポイントの事件であろう。戦後すぐに、アメリカ占領下で民主化が進み、一時は日本で社会主義革命が起こるのではないかというところまで、左翼勢力は勢いを得た。そこに中国大陸での中華人民共和国の成立し、ソ連を中心とした社会主義勢力の拡大と併せて、アメリカが危機感を募らせ、日本を反共の砦にするという路線に転換したのである。下山事件以降、日本では反共、再軍備の動きが活発になる。「戦後史の汚点 レッド・パージ GHQの指示という『神話』を検証する」(明神勲、大月書店、2013年)では、日本におけるレッド・パージは5段階に分けられ、それぞれを、①1949年7月~12月の「行政整理」「企業整理」 ②1949年9月~1950年3月の「初等中等学校教員のレッド・パージ」 ③1949年9月~1951年3月の「大学教員のレッド・パージ」 ④1950年6月~12月の「新聞・放送から全企業に拡大したレッド・パージ」 ⑤1949年9月~1951年9月の「公職追放によるレッド・パージ」としている。下山事件は、ちょうど①の段階で発生した事件なのだ。
さて、今回のドラマで下山事件を終生追い続けた布施検事の役を演じた森山未來さんだが、彼の、感情を表に出さずひたすら冷静沈着に、そして熱い闘志を心に秘めた演技に、役者としての力量を見た。顔の筋肉の一つ一つの動きに、心の感情を表現する演技は圧巻だった。最近のドラマに出演する俳優たちの中でも群を抜いた、というより数段上の演技力だ。少し前の大河ドラマ、「いだてん」で見せた破天荒な落語家の役と今回の検事の役、同じ役者が演じているとは、到底思えない。これでこそ、「ザ、役者」だろう。
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