2月3日の読売新聞の国際面に「米異例 ユダヤ人に制裁」という大きな見出しで記事が掲載されていた。一貫してイスラエル支持を打ち出していたアメリカが、パレスチナ人へ暴力行為を行ったイスラエル人のアメリカ資産を凍結したのだ。バイデン大統領は、「過激な入植者による暴力、強制的な移住や破壊行為が耐え難い水準に達している」と大統領令を発出した。本当に異例な事である。逆に言えば、それほどイスラエル側からのパレスチナへの耐え難い行為が行われているということだろう。
1月28日に放映されたNHKスペシャル「衝突の根源に何が」は、かなり力作である。西側から見た今までの中東問題を再考しなければならないと思わせた。両政府(パレスチナは自治政府)の首脳から民間人までの100人以上のインタビューで構成されている番組である。重要なポイントは、オスロ合意とその破綻にある。この合意に携わった両首脳達が語ったのは、「オスロ合意で、衝突が緩和される。平和が訪れる」という期待感だった。オスロ合意は、パレスチナ自治政府を認め、両国が互いにその存在を認め合うというものだ。しかし、このオスロ合意が破綻する。破綻の原因は、イスラエル側のパレスチナ自治領への入植活動である。パレスチナ自治領に住むパレスチナ人は、土地を奪われ、生活を奪われ、安全を奪われた。この行為に抗議するように、パレスチナからイスラエルへのテロ行為が起こる。そして、ハマスが台頭するようになるのだ。
日本のニュースをみていると、とにかく西側に立った視点での報道が多い。だから、パレスチナ側が起こすテロ行為は、大きく報道される。しかし、日常的に繰り返されるイスラエル側からの入植活動や、その活動に伴うパレスチナ人の殺害や人権侵害以上の弾圧行為などは報道されない。パレスチナ自治領に住むパレスチナ人は、テロリストではない。自分の安全な生活を維持したいだけなのだ。それを奪った極右のイスラエル人。シオニズム系の政党の幹部は、このインタビューでもパレスチナ人がイスラエルの地に住むことを認めていない。「この地は、すべてイスラエルのものだ」と考えている。果たしてそんな考えで良いのか?そんな極右が政権に入っているネタニヤフ政権で平和が訪れるのか。訪れないだろう。冒頭に述べたバイデン大統領の大統領令に対しても、「不必要だ!」とネタニヤフ首相は反発している。イスラエルが長年行ってきた国連決定に関する違反行為を、もっと世界は断罪しなければならなかったのではないか。一旦平和が訪れることを期待させたオスロ合意を破綻させてしまったがゆえに、両者の不信、いや憎しみは数十倍になったかもしれない。
番組の最後に、イスラエル人であるが、パレスチナ側からも取材を続けていたジャーナリストへのインタビューがあった。この問題の解決には何が必要かという質問に対して、そのジャーナリストは「もう、当事者同士では解決できない。大きな政治介入が必要だ。軍事介入ではない政治介入だ」と述べた。まさにそうなのだろうと思う。今回のバイデン大統領による大統領令は、あまりにも遅いし、あまりにも小さい。もっと、パレスチナ人がどのような過酷な状況に置かれ続けてきたかを私たちは理解しなければならない。西側だけの視点ではだめだ。
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