1月17日に奈良教育大学付属小学校での不適切指導問題が明るみに出た。問題の詳細は、いろいろなところで取り上げられているので省く。ポイントは、2点+1点である。附属小学校の問題として、①学習指導要領に基づく授業が行われていないこと②職員会議を最高議決機関と位置づけ校長のガバナンスが効いていないということである。これについて、大別すると二つの意見がネット上で展開されている。この問題の発端が校長の内部告発によることも踏まえて、法令順守の立場で学習指導要領に基づく授業が行われていないのは問題だという校長支持派と、管理職の締め付け反対という立場で、この問題を受けて文科省が附属学校園への締め付けを行わないようにしてほしい、もしくはもともと戦後すぐには教師の自由裁量の範囲が広く、学習指導要領に強制力はなかったという意見である。現在、学習指導要領に法的拘束力があるのは明らかで、過去がどうこう言うのは論外である。学習指導要領に法的拘束力があるのだから、たとえ研究を重視する附属学校であろうと学習指導要領に則った授業を行わなくてはならない。法を順守するということは当たり前だろう。
ところが、教師の世界では、この当たり前が通用しない場合がある。子どものために良いことをしているのだから、別に良いではないかという論理が成立するのである。奈良教育大学附属小学校にも研究熱心な教師が集まっているのだろう。それはとても良いことだ。だが、研究熱心な故に、法を逸脱しては元も子もない。運動会の練習に熱心に取り組んだがゆえに、授業が削減され教科書が終わらないことがあった附属学校とよく似ている。研究を深く行いたいなら特例校に指定申請すればよい。指定されなければ、学習指導要領の範囲で研究を行わなければならない。自明の理である。教師のコンプライアンス意識が求められているのだ。
この問題について、「保護者は何も言っていないではないか」という意見を述べる人がいるが、保護者が意見を言わなかったら良いという問題ではない。また、附属学校には、比較的家庭の教育力が高い子どもが学ぶことが多く、学校の教育が行き届いていない部分は、家庭で補える力を持っていたのではないかと思う。公立学校でこのようなことがあれば、クレームの嵐だろう。
2点目の問題。奈良教育大学附属小学校の校長が、内部告発に踏み切ったのは、どちらかといえばこちらの問題が大きいのではないかと思う。外部から赴任した校長は、赴任してしばらくして「?」を感じたのではないか。そこで、校内で是正に向けた議論をしたはずだ。議論をせずに内部告発するようなことはありえない。ところが、教員との議論がなかなか嚙み合わない。当然だろう。教員は「職員会議が最高議決機関」と考え、校長からの是正案に反対する決定を職員会議で行っていたと想像する。いつの時代の話か。学校教育法施行規則には、
第四十八条 小学校には、設置者の定めるところにより、校長の職務の円滑な執行に資するため、職員会議を置くことができる。
2 職員会議は、校長が主宰する。
と記載され、職員会議は、校長の補助的機関として位置づけられているのである。私が経験した大阪府立高校でも20年近く前にこの位置づけが徹底された。20年前の話である。今回の奈良教育大学付属小学校の問題は、単に学習指導要領を逸脱しているという問題だけではなく、その逸脱を校内的に「是」とするための不正な組織運営が行われてきたことによる。この点が、悪質であり、かつ問題の根が深いと言える。
そこで、最後の+1の問題である。このような不正な組織運営は、一朝一夕に成立しない。長年の悪習が積み重なった結果である。ということは、過去にこの学校に赴任した校長は黙認してきたことになるのだ。今回、告発した校長は外部から来られた方である。以前の校長がどうであったかはわからないが、奈良教育大学の教授が校長を務めることが多いのではないか。そうであるならば、さらに問題は根深い。大学としてのマネジメント能力が問われるのだ。過去の校長がどのようなマネジメントを行っていたのか、教育大学であるがゆえに真摯に向き合わなければならない。
教育を研究する教育大学の教授であるにも関わらず、附属学校の校長を務めることに消極的であるという例が多いと聞く。自らの研究が、実践レベルでどうなのか。特に、学校経営、教育政策・教育行政に関わる研究をされている大学教員は、自ら研究をバージョンアップするためにも、そして理論と実践の統一を図るためにも、積極的に現場の管理職を務めてほしいものだ。
ところで、理論と実践の統一で、実践の優位ということを大学教員はご存じだろうか?様々な理論は、実践によって淘汰されていくのである。また、実践は理論を導きの糸として行わなければならない。その結果、理論は淘汰されていくのである。
とにかく、この奈良教育大学附属小学校の問題、よくぞ校長は公にしたと思う。色々ネット上で言われているが、私は断固支持したい。
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