変わりゆく風景


 毎日駅に向かって歩いている途中に、木村文具店がある。木造2階建ての古い建物だ。この木村文具店は、思い出深い。というのも、小学生の頃、この木村文具店に、小学館が発行している「小学〇年生」という月刊誌を買いに行っていたのだ。何年生から購入を始めたのかは覚えていない。しかし、毎月発行されるこの月刊誌を心待ちにしていた。

 子どもの頃は、月刊誌がいつ発刊されるのかわかっていない。だから、月が替われば母親にお金をもらい、木村文具店に行くのだ。母親から「まだ売ってないよ」と言われても、子どもは確かめずにいられない。今では、家から5分強で辿り着く木村文具店だが、小学生低学年の私にとっては、小さな冒険である。

 木村文具店は、おじさんとおばさんの二人で店を経営していた。おじさんもおばさんも優しい感じの方たちで、子どもの私は、この人たちが好きだった。小さい私が、お金を握りしめて「小学〇年生、ありますか?」というと、「残念、まだ来てないよ。〇日ぐらいだと思う」と教えてくれた。

 私が河内長野に戻ってから店は閉まっていることが多かったが、店の前を通るたびに、「おじさんはまだ元気なのだろうか」とふと頭に浮かんでいた。ご健在ならいくつくらいだろう。90歳を超えているかもしれない。そんな木村文具店が、ある日テントで覆われていた。それを見たとき、「さもありなん」と思う気持ちと、子どもの時の思い出が無くなっていく寂しさと、「おじさん、おばさんはもういないのかもしれない」という思いが交錯した。

 私も今年66歳になる。考えてみれば、60年近く前の話なのだ。当時からずっと変わらない姿で立っていた木村文具店。また一つ、子どもの頃の思い出の風景が変わる。


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