加藤喜之著「福音派」


 6月に読んだ本を紹介したい。内田 由紀子著「日本人の幸せ-ウェルビーイングの国際比較」を読んだ。ウェルビーイングという言葉に惹かれて読んでみたが、文化論比較という感じの本で、あまり期待に応えるような内容ではなかった。書いてある内容は、「そりゃそうだよね」という内容がほとんどで、新しい知見を得られることはあまりなかった。ただ、インド人の気質が、アジアというよりもヨーロッパのそれに近いというデータがあることは新鮮だった。

 もう一冊加藤喜之著「福音派」を読んだ。この本は、売り上げが10万部を超えベストセラーになっているというのを、今日の読売新聞の1面の広告で知った。確かに、読んでいて面白い本だし、確かに「福音派」がアメリカの国際・国内事情に大きく影響しているだけに注目を浴びている宗派という事も有るだろう。内容はかなり広く深く読み応えのある本である。どんな著者なのだろうかと思っていたら、今日の広告に写真が掲載されていた。余談だが、なかなかのイケメンである。

さて、福音派だが、加藤氏の定義によれば
「1920年代のアメリカで勃興した反近代的な原理主義運動の流れをくむ、保守的なプロテスタント」である。アメリカの人口の23%を占める大集団の宗派だ。

 彼らは、聖書の言葉を一字一句信じている。だから、終末論者であり、イエスの再降を信じている。イスラエルがイエスの再降に関係しているので、頑固なイスラエル支持者でもある。私たち日本人にとっては、「アルマゲドン」という言葉は、映画のタイトルで知っているぐらいだが、彼ら福音派は、本当にアルマゲドン、最終戦争が起こると信じている。進化論などはもってのほかと考えている人々なのだ。また、彼らは白人至上主義と親和性があり、人種差別主義者でもあり、中絶反対者だ。アメリカが白人の国ではなくなることに危機感を持っている。

 この本を読んでびっくりするのは、福音派と政治、特に歴代大統領との関係性である。今でこそ、トランプ(もう大統領とは言いたくない)と福音派の濃い関係は周知の事実だが、福音派が政治と結びついていったのは、民主党のジミー・カーター大統領の1970年代に遡るという。共和党・民主党に限らず、時の政権に影響を及ぼし続けている。彼らが政治に関与するのは、「アメリカをキリスト教国家にする」ためなのだ。

 この福音派の政治に関わる動きを見ていると、アメリカは宗教国家かと思うほどだ。政府の要人にも福音派が絡んでいる。そして、自らの宗教に基づく政治を行っているのだ。そんなことを考えると、創価学会の動きなどは可愛いもの、統一教会でさえたいしたものではないとさえ思えてしまう。それほどの政治との関わりなのだ。

 現在のアメリカは、分断されているという。その一方が福音派なのだ。彼らはキリスト教原理主義者なので、自らの宗教に妥協しない。例えば、アメリカでは家庭で子どもに教育をすることを認める州があるが、なぜこのようなことになるかというと、福音派の家庭が、公立学校で進化論を教えたり、礼拝をしないことに対して反発し、「そんな公立学校には通わせない、家庭で教育する」と主張したからだ。こういう宗教面を見ずに、教育の制度だけ見ていても、本質は見抜けないのだろう。

 新書版とはいえ、なかなか手ごわい本である。ダイジェスト版を読みたい人は、中央公論7月号で著者の加藤氏と「ユダヤ人の歴史-古代の興亡から離散、ホロコースト、シオニズムまで」の著者である鶴見太郎氏との対談をお薦めする。


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