「2階建て学習指導要領」は機能するか?

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 5月4日の読売新聞の3面に、読売新聞としては珍しく、紙面全部を割いて学習指導要領の改定の話題が掲載された。「多様な子 柔軟に教育」「クラスと特別課程『2階建て』」というタイトルがついている。この間、中央教育審議会でかなり議論されてきた内容である。教科書のデジタル化の議論とは違い、かなり議論が交わされた。

 詳しくは、新聞記事や一連の中教審の議論を振り返ってもらえばよいのだが、今回の中教審の議論の一つの柱に包摂性ということがある。義務教育を中心に、35人のクラスには学習困難3.6人、不登校傾向4.1人、「ギフテッド」と呼ばれる特異な才能のある子ども0.8人いると言われており、更に、日本語指導が必要な外国籍の子どもも急増している。これらの多様な生徒を同一学年で、同じ教室で、一斉の授業で行うことの困難さを解消しようというのが、今回の学習指導要領の包摂性である。

 1階で通常の教育課程を柔軟に行い、2階で特別な教育を行おうというのだが、果たして実現できるだろうか。東北大学の青木教授が次のようにコメントしている。
「教員不足にあえぐ教育現場が対応するには限界がある」
「学校現場の人員の増強と、指導と支援に加わる専門人材や大学などとの連携は欠かせない。子どもが必要な支援や教育を受けられるように調整する『コーディネーター』のような教職員も必要ではないか」
まさにその通りだろう。青木教授は、私が兵庫教育大学大学院で師事した教授で、素晴らしい学識をお持ちの方だと尊敬していた。だが、教員不足に関する中教審での議論で、教職調整額の引き上げを提案されており、その点について私は批判的だったが、今回のコメントは、この2階建て学習指導要領の実現に必要なことを的確に指摘されている。
 まさに、いくら理想を語っても、それを実現するために環境整備が進まなければ、実現できないし、現場教員の更なるブラック化が進むだけである。

 そもそも、日本の学校教育制度が日本の現状にマッチしていないために、このような2階建て学習指導要領を考えなければならないのだ。「1階」を死守するために、そして「1階」で学習できない子どもたちのために「2階」が必要になったのだ。それなら、「1階」を「2階」のような教育制度にする、日本の教育制度を根本的に転換することもありうるのではないか。
 今から、2040年の学習指導要領の話をするのは笑われるであろうが、この包摂性を求めていけば、「1階」をどうするのかという議論に自然と行きつくのではないかと思う。相当困難な作業であるが、学校教育法の改正も含めて視野に入ってくるように思う。

 最後に付け加えておくが、今回の学習指導要領の改定は、包摂性のみではない。中高を中心に概念教育の推進が盛り込まれている。これは、「1階」部分の教育を、今までの知識偏重型から転換しようというもので、極めて重要な柱である。この点についても、マスメディアは、広く取り上げてもらいたい。そうでなければ、教員に浸透しても、保護者に浸透しないし、大学にも浸透しない。概念型の教育を行っても、受験に役に立たないということになれば、保護者の支持も得られないからだ。
 教員の実践、保護者の理解、受験制度の転換ということが図られなければ、概念教育の浸透も難しい。


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