リベラル派の罪


 文芸春秋2月号に興味深い記事が掲載されていた。「混迷するドイツ、リベラル派の罪」という題で、マルクス経済学者の斎藤幸平氏とマライ・メントライン氏の対談だ。ドイツでは、極右政党「ドイツのための選択肢」が急伸し、地方議会で第一党を占めるまでになっている。それに比して、「緑の党」が急落しているというのである。また、極左政党である「ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟」が旧東ドイツで伸びており、左派であるにも関わらず極右政党と主張が近いというのだ。両者を合わせると、40%~50%の支持率を占めるという。また、旧西ドイツと旧東ドイツの格差が拡大し、旧東ドイツの人にとっては、「こんなはずではなかった。もっと豊かになると思っていた」という声があるという。旧東ドイツから若者の労働者が西側に移動しているというのだ。このあたりの話は、エマニュエル・トッド氏の「西洋の敗北」にも「東欧は、西洋へのプロレタリアートの供給基地になった」という趣旨の記述があり、それと合致し、興味をそそられた。

 更に興味をそそられたのは、イスラエルの問題である。ご存じのように、今のイスラエルはガザに「ハマス撲滅」の大義を掲げて、日々殺戮を重ねている。その悲惨さは、ジェノサイドと言われても仕方がないほどだ。斎藤氏曰く、

「ヨーロッパの他の国では『イスラエルがやっていることはジェノサイドだ』と主張しても、特に問題は起こりません。ところがドイツは、イスラエルの非道を追求するのがタブーですね」(P176)

というのだ。斎藤氏は、今まで交流があったマルクス・ガブリエル氏などのドイツを代表する哲学者とも疎遠になったと嘆く。なぜこういうことになるかと言えば、ドイツは、ナチのユダヤ人虐殺の歴史から、戦後「土下座外交」を繰り返し行うことで、世界での地位を得てきた。言わば、「土下座外交」が勝利の方程式なのである。このことが教条化してしまい、イスラエルのこの暴挙に対して、どのように対応してよいのか、「プランB」を持っていないというのである。このドイツの混迷は、過去のアジア大陸に侵略した日本軍の行為についての「土下座外交」と共通するところがある。未だに、韓国・中国では、反日を掲げる勢力が存在するのだから。要は、リベラル派と言われる人々が積み上げてきた様々なコンセプトが、暗礁に乗り上げるような事態が、今の世界で発生しており、リベラル派は、その事象についての「解答」を持ち得なくなっているというのである。

 リベラル派について、斎藤氏は、そのダブルスタンダードを指摘する。
「リベラリズムは民主主義、人権、平和、平等、多様性ー私達が尊重するべき価値を訴える一方で、資本主義にも深くコミットしてきた。しかし、資本主義にコミットするということは、植民地支配や軍事投資を受け入れ、環境破壊を行い、格差を作るということであって、本来ならリベラリズムとは根本的に相容れないはずです。」(P177)
このダブルスタンダードが、リベラリズムも前提になっており、
「戦争や格差拡大、環境問題など、あまりに大きな問題が立て続けに起こっている中で、この両極の車輪は、もう成り立たない時代に突入している」(P178)
にもかかわらず、リベラル派は従来の主張を繰り返すことに終始しているという。その結果が、アメリカのリベラル派の敗北、つまりハリスの敗北につながるという指摘だ。このままいけば、益々ファシズムとポピュリズムが台頭すると、斎藤氏は指摘する。リベラル派が、現実の世界で起こっている大きな様々な問題に「解答」を持ちえないからだ。

 ここまで読んで思ったことは、「度が過ぎる発言」で書いたトランプ氏の愚かさだが、おそらくアメリカ国民はこれを指示するのではないだろうか。リベラル派が解決しえない問題に対して、「間違った解答」であるにもかかわらず、トランプ氏は一応「解答」を示したからだ。1月20日のトランプ氏の大統領就任後に何が起こるか、「トランプ氏の非常識」とばかり言っていられない世界情勢になっている。
 


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