妹尾氏に反論する

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 5月24日に教育評論家の妹尾氏が「文科省がNHKに抗議、深まる学校との溝、だれが一番損するのか」という記事をネット上に挙げた。内容は、文科省が働き方改革の中教審答申の報道をしたときに、「働かせ放題」という言葉を使ったことについて、文科省が「一面的である」と抗議文をNHKに送ったことについて、学校現場から文科省について反発の声が上がったが、その件について「いかがなものか」と意見表明したというものである。詳しくは、文末のリンクを見てほしい。まずは、妹尾氏の意見をまとめてみよう。

①「文科省は学校のことを分かっていない」とセンセーショナルに煽り、文科省と教職員との不信感を広げ、分断を助長することは、とても賢い選択だとは思えない。これは、「離間の計」である。
②あまりにも教育関係者がまとまらないまま、仲たがいばかりしていては、いつまでも教育予算は増えない
③文科省と学校との亀裂が深まると、文科省や中教審、あるいは政治家が提唱する教育改革や制度変更は、学校現場での運用・実践段階で形骸化する。骨抜きになりやすい。そうすると、学校現場は問題だらけ、改革が浸透していないように見えるので、また追加的な教育改革や制度変更をしようとする。こうなっては、ますます学校は苦しくなる。
④文科省に不満を言いたくなる気持ちは分かる。だが、だからといって「文科省が悪い、分かっていない」と言うばかりでは、学校、教員は、自分たちの問題や改善点を見ようとしなくなる。

 主に、妹尾氏自身が、太字で強調したいと思われる部分を抜き出した。まず、根本的な妹尾氏の考え方の部分であるが、文科省を教育関係者とひとくくりにしていることである。確かに、教育関係者に違いない。それも日本の教育の根本を司る行政機関だ。この教育に関する行政機関が、学校現場の問題に真摯に取り組んでいるという信頼関係があるのなら、妹尾氏の意見も納得感がある。が、果たして文科省は今まで学校現場の問題に対して真摯に向き合ってきただろうか。左右の政治勢力が対立していた時代には、政府ー自民党の教育政策を如何に実現するのかということに苦心してきた。それは、文科省vs日教組という対立関係が、戦後長く続いたことに象徴的に表れている。だから、妹尾氏の言うように、文科省が教育関係者として、文科省ー教育委員会ー学校管理職ー教職員として一括りにできるのかという問題はかなりある。学校現場の教職員には、もっと教育予算を増やして、よりよい環境で教育活動ができるように、汗をかけよという思いが強いのだ。教育評論家である妹尾氏は、評論家であるがゆえに、この現場の積もり積もった思いが理解できない。評論家の限界だろう。だから、「離間の計」などという言葉を持ち出して、文科省への批判の自重を求めるのだ。文科省が、必死になって教員の働き方改革を率先して行っているなら、「共に闘う仲間」が成立する。妹尾氏の言う「離間の計」が成立するのは、「仲間内」ということが前提なのだ。この前提が、成立していないことを妹尾氏は理解していない。
 さらに、今回の働き方改革の中教審での議論の中心は、「教員不足の解消」のために「教職の魅力化向上」を計り、そのために「教員の労働条件の向上」を行うことが中心テーマだった。そして、その中心にあったのが、給特法の取り扱いなのだ。文科省は、あっさりと給特法の継続の姿勢を決め、中教審特別部会にも学校現場の代表者を入れず、御用意見を述べる委員ばかり集めた。この姿勢に、どこが「仲間としての教育関係者」と感じられるのか。NHKが教員の実態を正確に表現した「定額働かせ放題」にも、神経質にそして過剰に国家の行政機関が抗議文を送ったのだ。そんな姿勢に、「仲間内」と感じろというほうが、無理がある。

 また、妹尾氏は「批判ばかりせずに、自分事として考えろ」と教員に対して言う。そしてその例として、部活動と学校行事を挙げている。ちょっと待てと言いたい。部活動の地域移行について、各教育委員会で様々な努力をしている。しかし、壁にもぶつかっている。その壁は、「部活動指導員の確保」なのだ。ある程度の報酬を用意しなければ、部活動指導員は確保できない。その報酬を担保する予算を用意するのはどこか。文科省だろう。文科省が、もっと教育予算を獲得できれば教員の働き方改革は進む。妹尾氏が言うように、教員がジブンゴトにして、自ら解決するような問題ではない。
 学校行事は、確かに学校の裁量でどうにかなる問題だ。しかし、地域住民、保護者というステークホルダーの理解と納得がいるのは当たり前だ。給特法が廃止され、学校行事に時間をかける残業が十分にできない状態になれば、「学校行事の精選もやむなし」となるだろう。しかし、「4%→10%」になって、「精選やむなし」とすぐに理解できるだろうか。直截な言い方をすると、「私たちの税金から給料が支払われ、さらに給料がUPするのだから、それなりの教育サービスを受けるのは当たり前」という意見も出るだろう。自分で何とかなるような問題と妹尾氏は言うが、学校現場はそう簡単な問題ではないのだ。

 結局妹尾氏は、どうしろと言いたいのか。批判は自由と言いながら、どう読んでも「批判を自重しろ」としか読めない。そんなことで、教員の働き方改革は進むのか?今必要なことは、給特法の維持を示したこの答申に対する反対、給特法廃止の声を全国的に広げ、中教審答申を踏まえた法制化、国会通過を阻止することではないだろうか。
 今、政治は大きく動いている。安倍政権の時には、野党が何を言っても無駄な気がしていたが、今の政府与党は、大揺れだ。いつ、衆院選が行われるかわからないし、与党が過半数割れになるかもしれない。こういう時に、「自重しろ」というのは、本当に学校現場の事を考えていますかと思わざるを得ない。今こそ、最大限の流れを生み出すときだろう。

文科省がNHKに抗議、深まる学校との溝、だれが一番損するのか


“妹尾氏に反論する” への3件のフィードバック

  1. くるまめのアバター

    学校現場に立ったご意見、たいへんありがたいです。
    妹尾先生のご意見に対して少なからぬ違和感を感じていましたが、その違和感を理論立てて説明・反論してくださいました。
    願わくば、このご意見が広まり、反響を呼び、これに沿った方向へ改革が進むことを期待します。
    そうでなければ、近いうちに、学校は本当に崩壊してしまうでしょう。

  2. 野中 悟のアバター
    野中 悟

    はじめまして。
    もうじき還暦を迎える高校教員です。

    妹尾氏の記事への反論を拝読しました。
    読んでいてとても勇気づけられました。
    ありがとうございました。

  3. 佐藤のアバター
    佐藤

    学校現場を理解してくださる考え、ありがたいです。

    教員免許を持ってない人を教壇に立たせることが可能なのであれば、文科省の方や研究者の方は、1ヶ月でも学校現場で働いていただきたいです。

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