S4の「いじり」

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 S4とは誰か?2023年8月に大阪市立中学校で起きた3年生の男子生徒の自死について、調査を行っていた第三者委員会が5月12日に提出した調査報告書の中でいじめの「主犯格」とされた生徒である。この生徒は、場の笑いを取ろうと特定の人物をからかう「いじり」や執拗(しつよう)に関わってくる「だるがらみ」などの行為を自死した生徒に繰り返していた。報告書では、自死した生徒もS4の生徒も所属する水泳部でのいじめや同じクラスでの同様の行為が、自死につながったと断定している。

 S4について、報告書では次のように記述されている。

 このS4の「いじり」行為について、水泳部の顧問は、再三再四、指導をしている。しかし、S4は、顧問の指導を意に介さず、逆に顧問の言い方のものまねしたりすることで「笑い」を取ろうとしたり、「なんで俺だけ」と反発し、反省の色は全く見えない。なぜ、このようなことが起こるのか。一つは、この水泳部の顧問が、技術指導ができない(水泳部の指導経験がない)顧問だからだ。報告書でも「マネージャー的位置づけ」と記載されている。このように生徒から見られると、顧問としての指導も生徒から「一段下に見られる」ことがある。なかなか、指導が入りにくいのだ。
 それならどのようにすればよかったか。やはり、このS4の「いじり」「だるがらみ」について、教職員で情報を共有し、どのように対処すればよいかの共通認識を持つべきだった。しかし、2年生の時の担任は、S4をムードメーカーとして扱い、学級委員でもないのにクラスを仕切ることを任せていたようだ。これでは、S4のいじりに対して不快な思い、自己肯定感を下げている周囲の生徒たちは声を上げることができない。

 私は、この「いじり行為」に関して、教職員の認識が低いことが大きな問題だと思っている。そして、この低さの要因の一つに、大阪の「お笑い文化」の悪影響があるのではないかと思っている。大阪以外の人が、大阪人が会話をしているを聞いていると、よく「漫才のようだ」と評される。ボケとツッコミで、オチがあり、最後に笑いを取るというのである。確かにそういう傾向があるのだろう。しかし、「いじり」「いじられ」の関係も互いに了承されている関係があり、そんな会話をずっとしているわけではない。お互いに対等平等に話をしていることの方が多いのだ。しかし、S4にとっては、「笑い」を取って自分が集団の中心にいることが最大の関心事で、周囲の生徒がどんな思いをしているのかは二の次だ。そして、教職員の中にもこの「お笑い文化」に毒され、「いじり」行為の軽視があったように思えて仕方がない。「笑いで終われば、それでよし」という事は無かったのだろうか。報告書には言及されていないが、大阪人がこのS4の「いじり」行為を観察すると、このように思えてしまうのだ。

 批判ばかりしていても良くないので、「それではどうすれば良かったか」を考えてみたい。S4の「いじり行為」は問題であるという共通認識があることは大前提であるが。まずは、S4の行為について、どのように感じているのかという聞き取り調査を、クラスでも水泳部でも実施する。そうすることで、いじめに関する実態が浮かび上がってくるだろう。その上で、いじめに関する緊急アンケートを全校的に実施し、S4のいじめ行為をクローズアップさせる。このアンケート結果を踏まえて、校内のいじめ防止委員会でいじめの認定を行う。そして、S4及びその保護者を呼び、S4が行っている行為はいじめであること、S4が「いじり」と思っている行為をすぐに止めることを指導する。
 おそらく、S4及び保護者は、反発するだろう。しかし、アンケート結果も踏まえ、他の生徒がS4の行為をどう思っているのかを粘り強く指導するしかない。生徒には、いやな思いをすれば、すぐに教員に知らせることを伝え、教員が生徒の味方である姿勢を伝える。そして、S4の「いじり行為」があったときには、毅然とした態度で他の生徒たちにも見える形で教員が指導していくことを示さなければならない。それでも、すぐにS4の「いじり行為」が止まないようであれば、被害者を増やさないためにも、クラスでも水泳部でもS4から距離を置くようにする。集団から孤立していくことで、自分の行いがどのように思われているのかを自省させていくことが大事だろう。

 それと同時に、S4が、なぜこのような行動を取るのかという彼自身の抱える問題へのアプローチが必要なのは言うまでもない。このS4も現在は高校生のはずだ。どんな学校生活を送っているのだろう。まだ「いじり行為」を続けているのだろうか。できれば、自らの過ちに気付いていてほしい。


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