OECD教育・スキル局長発言は軽率だ


 8月7日の読売新聞教育の欄に、OECDのアンドレアス・シュライヒャー教育・スキル局長のインタビューが掲載されていた。文科省の中央教育審議会がまとめた教員の処遇改善策に関する提言についてのインタビューだ。シュライヒャー局長は、世界で進められるコンピテンシーベースの教育推進の中心人物で、日本の学習指導要領にも大きな影響を与えている(と私は考えている)。OECDが進める「生徒エージェンシー」の育成についても、私は大賛成である。
 ところが、今回のインタビューで局長は、「教職調整額の引き上げは正しい方向だ」と答えている。そして、残業代の支給については、次のように答えている。
「時間外の業務にお金を払うのは、教員の働き方をより悪化させる。長時間労働の問題を解決するどころか、逆に長時間労働を認めてしまうことになるのではないか。」
「子どもの学力を国際的に比較するOECDの国際学習到達度調査(PISA)の成績上位国で、残業代を支払う国は少ない」

 
 まず、局長は、「教員の給与がほかの職種と比べて高くない日本の現状を踏まえても、教職調整額の引き上げは正しい方向だ」と述べている。局長の言うように、処遇改善のために、引き上げるのは正しい。しかし、この調整額は、いくら働いても「定額」しか支給されない「働かせ放題」になっているのだ。そして、「残業代を支給すれば、逆に長時間労働を認めてしまうことになる」という。なぜなのか、その理由を局長は述べていない。残業代を支給すれば、教員にとっては労働に対する正当な対価が支払われ、管理職は「タイムパフォーマンス」についてインセンティブが働くのだ。残業代が支給される国立大学法人の附属学校や私立学校の実態を局長は踏まえて発言しているのだろうか。これらの学校では、管理職からのタイムマネジメントが十分に働いているのだ。
 さらに、局長は「PISA上位国に残業代を支給しているところは少ない」と発言しているが、PISA上位の結果と残業代の支給にどのような因果関係があるというのだろう。相関的な関係があるかもしれないが、本当に二つの因子が、因果関係を持つことを証明してから発言してほしいものだ。局長の言うように、日本の教員の処遇改善ということが必要ならば、教職調整額を引き上げたうえで、残業手当を支給すればよいのだ。
 また、日本の教育の強みが失われないように先生と児童・生徒との関係性を維持したうえで施策を進めてほしいと局長は言及している。この強みを維持しながら、働き方改革を進めようと思えば、かなりの人材を学校現場に投入しなければ実現できない。極論すれば、教師は児童・生徒と授業にだけ集中し、他の業務は他の人材に担ってもらう環境が整わなければ無理だろう。 

 今までシュライヒャー局長の発するメッセージには、様々な知見を得ることができ刺激を受けてきたが、今回は疑問しか残らない。局長としての発言としては、いささか軽率であるように思う。


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