NHK「シミュレーション」続稿


 8月16日、17日にNHKで放送された「シミュレーション」について、私は8月20日にブログでコメントした。その後で、原作を読んでみようと思い、猪瀬直樹氏の「昭和16年夏の敗戦」を読んでみた。原作と放送された「シミュレーション」では、だいぶ印象が違うと感じた。

 NHKのドラマでは、総力戦研究所の設立そのものが、総力戦の研究が目的のように描かれているが、原作を読むとそうとは言い切れないところがある。次期人材育成のような側面も大いにあるのだ。ドラマでは描かれなかった各地の視察や体育教練なども当初はあり、30歳前後になって「体育とは・・・」と嘆く研究員も原作で描かれている。これが第一に感じたところだ。

 第二に感じたところは、米英との戦闘に踏み切ろうとする陸軍を、何とか止めようとする東条首相の姿がドラマでも描かれていたが、原作はより東条首相にフォーカスされており、敗戦後の東京裁判にまで描かれている点が大きく違う。この原作は、総力戦研究所を入り口としながら、東条首相の胸中に焦点を当てたノンフィクションなのだと感じた。

 第三は、最大の違いというよりも違和感を持ったのは、総力戦研究所所長の飯村陸軍中将の描き方だろう。これについては、NHKと飯村中将の孫にあたる飯村豊氏の間で、大きな問題となっている。詳しくは、文芸春秋10月号「終戦80年NHKスペシャルは歴史の冒涜だ」を読んでもらえたら、如何にNHKの所長の描き方が、史実を無視したものかがわかるし、猪瀬氏の原作をも無視したものかがわかる。飯村豊氏が怒るのも無理はない。
 なぜ、このような形でNHKは総力戦研究所所長の姿を描いたか。簡単に言えば、

「英米戦に突入しようとする陸軍の意向を反映するように働きかける所長
vs日本必敗をシミュレーションしようとする若き研究所員」

という構図にしたかったのだろう。しかし、歴史はそんなに単純化されたものではない。それをこのように単純な構図に収めようとしたところに、NHKの劣化が伺える。天下のNHKなのだから、もう少し史実に忠実なものが求められたのではないだろうか。
 
 NHKもステレオタイプに落ちてしまっては、存在価値が薄れてしまう。


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