朝ドラ「ブギウギ」とキャリア教育


 10月2日から笠置シヅ子さんをモデルにした「ブギウギ」が始まった。今週は、小学生の鈴子(主人公)がエンタメの世界に入ることを決意する週だ。鈴子の実家は、風呂屋。鈴子は、小学校を卒業してからは当然のように家業を継ぐと決めていた。ところが、親友が中学校への進学を希望したり、芸者を夢見たりすることで、将来のことを考え始める。実家には、医者やマッサージ師、八百屋などいろいろな人が出入りしている。そんな中、鈴子は自分の将来について悩み始める。
 ある晩、お風呂で考えて長風呂になった鈴子に母親のツヤ(水川あさみ)が、「えらい長風呂やったな、どうしたん?」と語りかけたところから、鈴子が将来のことについて悩んでいることを打ち明ける。その時のツヤの対応が、とても的を得ている。「鈴子が、これやと思うものを決めたらええねん!」と。これはキャリア教育的に非常に重要な概念である。

 エドガー・H・シャインというキャリア教育の専門家がいる。彼は、『キャリア・アンカー』という概念を提唱した。個人が自らのキャリアを形成する際に最も大切で、他に譲ることのできない価値観や欲求のこと、また、周囲が変化しても、自己の内面で不動なもののことを「キャリア・アンカー」という。シャインは、キャリア・アンカーが確立するのは、20歳を超えたあたり、25歳~30歳ぐらいと提唱している。12歳の鈴子には、まだまだ確立するのは、早いと言えるだろう。しかし、考え始めることは大事だ。人生50年という鈴子の時代、現代と比べたら成熟することが早いのかもしれない。すでに、小学校の卒業を契機に自分の将来を考えているのだから。この私も教職をめざそうと決めたのは、小学校の高学年であった。今から振り返ると母親の影響が大きかったように思う。教師をめざすことが、とても素晴らしいことのように私に思わせた母親の手腕は大したものだと思うが、実は母親は病弱だった私では「到底、サラリーマンは勤まらない」と判断したうえでの話だったのだ。この話は、大人になって教職についてからわかった。「先生がこんなしんどい仕事なんやったら、教師になったらなんて言えへんかったのに・・・」と、母親はボソッと呟いたのである。「そうやったんか・・・」と心の中で呟いたことを覚えている。

 今、小中学生の親たちは、家庭でどういうキャリア教育をしているのだろう。子どもの持つ情報は限られている。自分の経験値の範囲でしかキャリアというものは考えられない。できる限り選択肢を広く持たせてあげること、可能性の幅を広げてあげることが大事だろう。そして、具体的な職業を指し示すことも大事だが、ツヤのように「あんたが、これや!と思うもの」を見つける手助けをしてあげることが大事ではないだろうか。朝ドラを見ながら、こんなことを考えた。


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