いじめ再調査106件

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 2013年~2022年の調査結果で、重大事案に対する再調査が106件に上った。いじめの重大事案については、第三者委員会の設置が義務づけられている。しかしながら、その調査結果や委員の人選に被害者側が納得せず、再調査を行う件数が106件もあるというのだ。いじめに関する調査と言うのは、なかなか難しい。しかし、一番肝心なことは、被害者であるいじめを受けた児童・生徒に寄り添う姿勢を持つということである。この姿勢を一貫して持っていれば、被害者およびその家族は第三者委員会に対して信頼を寄せるだろう。以下、この問題についていくつか私の考えを述べてみたい。

 第一に、いじめの調査で一番大事なことは、事実認定である。このことに尽きると言っても過言ではない。まずは、何があったのか、被害を受けた児童・生徒に十分に聞き取ることが大切である。第三者委員会の中には、学校や加害者側から聞き取りを行っただけで事実認定を行ったケースもあるようだ。それでは、被害者側が納得するはずもない。被害者からすると、自分がいじめられた内容を他人に話すというのは、本当につらい。しかし、第三者委員が丁寧に寄り添うことで、被害者側と信頼関係を構築することが一番肝要である。この事実認定において、加害者側からも聞き取り調査をすることになるが、加害者が素直に事実を認めるケースは稀有である。その場合、学校は周囲の生徒に対して事実確認をすることが求められる。丁寧に聞き取り調査を行うことが必要だ。時間がかかっても、被害者が訴える事実について、できる限り事実認定の努力をすることが大切である。

 第二に、人選である。学校関係者・教育委員会関係者はできる限り除外する必要がある。記事には、浜松市の例としてこのような事例が紹介されていた。これでは、信頼は得られないだろう。教育問題に知見を有する学識経験者、教育に造詣が深い弁護士などが考えられるが、いずれにしても教育現場でどういう状況でいじめが発生しているのか、その具体の事実を知らない者は、第三者委員にはふさわしくないだろう。教育学を専門にする学識経験者(大学教員)だから、学校現場に詳しいというわけではない。私の経験では、どちらかと言えば、学校現場を知らない大学教員の方が多い。これについては、他の附属学校園の教員からも同様の声が上がっている。大学教員がダメと言うことではないが、その教員がどれだけ学校現場の感覚を身につけているのかが大切だ。大学関係者よりも、民間のいじめ問題の専門家や教育アドバイザーの方が、実際の事例に触れることが多いのではないか。
 
 第三に、これは第三者委員会の覚悟に関することだが、どんな報告書を出そうが被害者側(時には加害者側)も満足することは無いということである。そういう意味で言うと、第三者委員会に関わった時点から、委員は「針の筵」を覚悟しなければならない。被害者・加害者の両サイド、もしくは学校も含めると3つの立場の関係者から好意的に受け止められるとは、絶対に思ってはいけない。被害者側には、どれだけ誠意をもって調査し報告書を作成したか、加害者側には事実認定を厳しく追及する姿勢を示せるか、学校には事実を隠蔽しようとする保身の姿勢が無いかどうか、こういう目と耳と肌感覚で委員会に参加することが求められる。

 10年間で106件、1年間に10件以上の再調査。学校も教育行政も、そして首長もこの事態を真摯に反省すべきだろう。第三者委員会設置を招くようないじめ事案、これこそ減らさなければならない。初期対応を間違わなければ、重大事案に発展しなかった可能性が多いのではないか。


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