国際バカロレアへの道ーその10


 「その9」では、国際バカロレア(以下、IB)の教育プログラムが、非常に現行の学習指導要領に近い内容であることを示した。IBの教育プログラムを参考に学習指導要領が作成されたのではないかと思うほどである。さらに、IBの教育プログラムの中で、”概念教育”について附属中学校で取り組んだことを述べた。というのも、この概念教育が一番ハードルが高いのではないかと感じたからである。
 松下佳代教授が、ディープ・アクティブラーニングで「本質的な問い」と「永続的理解」を提唱されていることも述べた。非常に重要な問題提起で、この問題提起を理解するいくつかの教材サンプルも提起されている。課題は、各教科、各科目、各教材の中で、「何が『本質的な問い』で『永続的理解』なのか」ということである。この点を学校現場の各教師に任せてしまうと、「本質的な問い」が多岐にわたってしまい、「永続的理解」の内容が混乱する可能性が高くなる。この点が、深い学習をする上で難しい点である。IBは、この点をどのように取り組んでいるのだろうか。
 IBの概念教育には、目標とする概念が示されている。それは各教科に共通した16の重要概念である。それを列挙すると、以下のようになる。

美しさ  変化  コミュニケーション  コミュニティー つながり  創造性  文化  発展 形式  グローバルな相互作用  アイデンティティー
論理 ものの見方  関係性  システム  時間、場所、空間

少しわかりにくいと思うので、IBの解説サンプルを示す。

「変化」は、ある形態、状態、価値観から別の形態、状態、価値観へと転換あるいは移動することです。原因、過程、結果を理解し評価することも「変化」の概念の探究にあたります。

「コミュニティー」は、空間、時間、関係という枠で捉えられ、個々が近接して存在している集団のことです。例えば、特定の特性や信条、価値観を共有する人々の集団や、特定の生息地で助け合って暮らす動物の群れが「コミュニティー」です。

と記載されている。この重要概念の下に各教科の概念が存在する。この概念は、その教材を学んだ時のゴールであり、このゴールを獲得するために、どのような授業の組み立てを行うかを考えるのである。これをIBでは、ユニットプランナーという指導案に書いていく。日本の指導案とは、まるで違うもので、概念を獲得するための方針を演繹的に記述するようになっている。日本の指導案は、最初に目標が書かれていても、各授業の記述を経てゴールがセッティングされる帰納的記述になっている。この点がIBの概念教育と大きく違う点である。どの概念を獲得するかで、同じテーマを扱っていても大きく授業内容が変わってくる。この概念教育をマスターするために、先生方と悪戦苦闘したのが、2022年であった。先生方も、学びが大きかったのではないかと思う。


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