私を国際バカロレアに突き進めた3つ目の理由として、「長年続く定員割れ」を挙げた。この問題は、私を国際バカロレアに向けて背中を押すというレベルではなかった。赴任して初めてわかったわけであるが、この「長年の定員割れ」問題が附属中にかなり深刻な事態をもたらしていたのである。私は、高校教師出身なので、定員割れによる問題事象の発生や問題の蓄積については、かなり敏感である。定員割れした学年が卒業する3年間は、何かと問題事象が多発する経験をしたし、定員割れをきっかけとして高校の評価が下がるということも経験している。さらに、大阪府で「3年連続定員割れをした学校は、再編対象」と条例で決められているので、校長は私学並みに広報活動に力を入れる。
ところが、附属中の教師の出身学校はほぼ全員が中学校であるので、それほどこの「定員割れ」問題に敏感ではないし、入試に至っては長年不合格者が出る選抜を行っていないので、(受験する側も受験される側も)緊張感が欠けたものになっていた。この問題もあり、入試方法を改革したのだが、これについては別のところで述べたいと思う。ここでは、「定員割れ」について、どのような事象が山積していたかを述べたい。因みに、付属学校園の事務もこの問題に手をこまねいていたわけではなく、他の大学の附属中学校の受験について尋ねたことがあるらしい。しかし、他校は数千人単位で応募があり、何回も抽選を繰り返してやっと500人前後まで絞ったうえで入試を実施するということがわかり、附属中との違いがあまりにも大きすぎて参考にならなかったらしい。
「定員割れ」問題による大きな問題は、学力格差の問題と不十分な保障体制であろう。公立中学校では、様々な生徒が入学してくるので「学力格差があるのは当たり前」と思われるが、公立の学校には、知的障がいや発達障害に対応できるように、支援学校や支援学級が整備されている。ところが、附属中には、学長の方針で支援学級は設置しないことになっているのである。しかし、定員割れが続く中で、明らかに支援が必要な生徒も入学してくるのである。支援が必要な生徒への個別支援はどうなっていたか。大学の教授や院生が自分の研究の対象と考えている生徒には、それなりの支援体制が取られているが、そうでない生徒は附属中の教員の支援しかなかった。高校出身の私でさえ、学力保障加配や生徒指導加配などで支援が必要な生徒への体制があることを経験してきたのだが、附属中は文科省の決めた定員より多く教員が配置されている(加配がある)が、それを上回る支援を要する生徒が在籍しているのである。だから、4月に赴任して私が最初に大学に要求したのは、学生を学習サポーターとして派遣してほしいということであった。これも実質的に開始されたのは2学期からであったが、「『焼石に水』かもしれないが、無いよりはまし」と思って実施した。
もう一つの定員割れ問題は、具体に述べることは止めておく。色々支障が出る可能性がある。ただ、一言「定員割れにより『地域の受け皿』となっている」とだけ述べておく。とにかく、大学側が生徒の実態に合わせて個別支援の体制を十分に行わないので、これ以上、定員割れを続けることは、生徒にも教員にも、そして保護者にも学校関係者にも利益をもたらさないと考えた。
もう一つ、大きな動きがあった。北幡地区の少子化が進む中で、加東市は小中学校を再編し、小中一貫校を開校する方針を決めており、この一貫校開校を機会に、より魅力的な学校へと創りかえることを方針決定していた。すでに東条地区では、東条義務教育学校が開校間近に迫っており、続いて社中学校地区でも計画が具体的に進んでいた。このような状況では、益々附属中の定員割れの克服は遠のいてしまう恐れがあった。折しもGIGAスクール構想の推進中であったため、加東市ではベネッセの個別支援ツールとITツールが一体となったミライシードが活用され始めていた。附属中よりも一歩先を進んでいたのである。
このような附属中内外の問題を解決するために、北幡地区の公立中学校に無い教育プログラムを提供し、地元中学校との「子どもの獲得競争」とは違う土俵で附属中の定員割れ問題を解決することが求められたのである。その問題意識から行き着いたのが、国際バカロレアなのである。
コメントを残す