学び直しは、高校でないとできないのだろうか?

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 7月12日の読売新聞に「再挑戦の教室」が掲載されていた。紹介されているのは、東京都立小台橋高校である。この学校は、学び直しをミッションに開設された高校で、義務教育段階で十分に学力が備わっていない生徒たちが、高校で学び直しを行う。記事で紹介されていた英語の時間も大学受験の勉強をする生徒がおれば、be動詞の活用から勉強する生徒まで、学習アプリの「スタディサプリ」を活用して勉強している。2コマ連続の授業の最後の15分、互いに問題を出し合い、学んだことのアウトプットを行う。
 学び直しを行う場合、ネックになるのは生徒一人一人の到達度がバラバラだということだ。これが授業を実施する側の壁になる。一人一人に対応する個別最適化の教育が求められる。一斉授業は困難である。この学校のように教育産業が開発した学習ツールが必要になる。私も、通信制に勤めて数学を教えていると、その学力格差に戸惑う。誰を焦点に合わせたら良いのか、その授業ごとに違うのである。例えば、前期に数学Ⅰの授業を12回だったが、生徒のノルマはそのうち2回の授業の出席で、授業の条件はクリアする。ということは、授業をする側にとっては毎回出席する生徒が違うので、誰がどの程度数学をわかっているか、まるで分らない中で授業をしなければならないのである。この状況は、全日制で授業していた時とは、まるで違うので戸惑いが大きかったが、ある意味「開き直ってやるしかない」と思わざるを得なかった。
 レポート提出が近づいてくると、質問に来る生徒が増える。そうすると、質問内容に驚くのである。尋ねてくるレベルが、小学校の高学年から中学1年生レベルなのである。たとえば、1/2+1/3=2/5は当たり前のように答える。驚いたのは、3-5=0.2なのである。この生徒は、3から5を引いたら、数が小さくなると考えて、小さい数である0.2と答えた。数直線を引いて、3から順番に5だけ左に移動してはじめて「-2」という答えが出てくる。
 そこで思うのである。この記事で紹介されている高校のように、学び直しのための高校が各自治体に開設されている。大阪でも3年連続定員割れで再編対象になることになった際、エンパワーメントスクールという名の学び直しの学校が開設されている。しかし、「なぜ高校段階で学び直しなんだ?」ということである。義務教育ではできないのかということだ。なぜ、義務教育段階で必要か。高校に入るまでの9年間の「学力の借金は、相当かさんでいる」し、高校を卒業するまでには3年間しかない。高校を卒業する18歳は、キャリア形成の観点から日本では一大イベントの決断が求められるのである。その後の人生に大きく影響するのだ。それなら、「借金は、少ない時に返済する方が良い」と思うのが普通だろう。
 私も数年前まで知らなかったのだが、欧米では小学校から「落第」がある。その制度が社会に受け入れられている。この制度が受け入れられるのには、学校は学力形成、人間形成は家庭と地域(教会)という役割分担があるからだ。日本のように、何から何まで子どもの成長を学校には求めない。だからこそ、この落第制度も受け入れられるのだろう。日本も教員の「働き方改革」を進めると、やがて教育の役割分担が進んでいくだろう。そうすれば、10年後ぐらいには、「落第制度」も受け入れられているかもしれない。とにかく、高校からの学び直しでは人生への影響が大きすぎる。


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