教育委員会勤務は視野を広げるか?


 12月14日の読売新聞「人生案内」に「教員、現場離れ視野広げたい」というタイトルで、兵庫県の高校教諭30代の男性の方から相談が寄せられていた。10数年学校現場で勤め、「同僚や生徒らに恵まれ、多くの素晴らしい経験や思い出を重ねられたことに感謝」しているという。今後は、「教育や学校と少し距離を置いて見つめ直すため、教育委員会の事務局勤務を検討」しているという。
 さらに、「現場では、基本的に毎年同じことの繰り返しで、先が見通せる物足りなさ」を感じ、「学校外に身を置いて視野を広げたいという思い」もあるらしい。

 さて、問題はここからだ。一体この男性教諭は、いくつ学校を経験したのだろう。高校という教育現場は、義務教育の学校と違って、あまり地域に縛られない。逆に学力に大きな影響を受ける。国公立大学をめざす進学校もあれば、指導困難な生徒が集まる学校もある。私は、指導困難校を皮切りに、中堅校→超指導困難校→指導困難校教頭→進学校教頭→進学校校長と職歴を重ねてきた。特に超指導困難校の経験は、まるで転職したような気分になった。そして、管理職として進学校に赴任した時も、それまでの世界とはまるで違う世界だった。
 
 この男性教諭は、教育委員会で勤務したいという。おそらく指導主事という職を念頭に置いているのだろう。指導主事の仕事は、字のごとく学校現場を「指導」することにある。更に、指導主事の仕事は細分化されており、例えば大阪府教育委員会事務局の高等学校課には、学事グループ、教務グループ、生徒指導グループ、学校経営支援グループがあり、高等学校課とは別に保健体育課、支援教育課、高校改革課もある。

 この男性が勤務する兵庫県の教育委員会の高等学校課にも、管理班、生徒指導班、教育指導班、高校教育改革班、教育DX推進室があり、この班の中にもさらに細分化された担当者がいるのだ。果たして、「視野を広げたいから」という目的で、教育委員会事務局で仕事をして、その目的が達成されるかどうかは疑問である。

 また、教育委員会には、あらゆる学校から問い合わせが殺到する。教育法規に関する知識はもとより、あらゆる教育課題についての知見が求められるのだ。私が校長を経験していた時も、大阪府教育委員会は人材不足で、1校の経験しかない教員が指導主事で仕事をしていることが少なくなかった。そんな指導主事に問い合わせをしても、頓珍漢なことしか答えないことが少なくなかった。問い合わせしているこちらの方が、「そんな回答で良いのか、教育法規ではこのように言われているじゃないか」と指摘すると、しどろもどろになることもあったのだ。

 この男性教諭も教育委員会事務局をめざすなら、それなりの知識と知見と経験と覚悟が必要だ。新聞に投稿して相談している場合ではない。学校現場の校長・教頭とよく相談して、果たして自分が事務局で通用するだけの能力と経験を有しているのかどうかを検討すべきだ。尾木直樹氏の回答は当てにならない。所詮、彼は評論家であり、教育委員会という過酷な現場に身を置いた人間ではない。


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