スポーツ強豪校においての不祥事

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 広島の広陵高校の不祥事が大きく取り上げられてから、私立高校のスポーツ強豪校の不祥事が相次いでいる。仙台育英高校でのいじめ事案、大阪の興国高校の飲酒事案などである。いずれの学校も全国大会出場を決めてた学校だけに、出場辞退に関わるような事案だ。実際、広陵高校は甲子園出場中に大会辞退という前代未聞の事態になった。仙台育英高校も、全国大会出場を辞退するに至った。

 このような事態がスポーツ強豪校に数多く発生するのは、構造的な問題があるのではないか。それは、ずばりスポーツ強豪を学校経営のウリにしていることだ。前述した不祥事が発生した私立高校の部は、いずれもが三桁の部員を抱えている。このような部員数では、様々な問題が生じるだろう。部によっては、1軍・2軍・3軍といった階層がある場合もある。そして、たとえ1軍でも公式戦に出ることができるのは、ほんのわずかの部員である。スポーツという一つの価値基準で構成されるヒエラルキーの中に生徒が位置づけられてしまう。

 強豪校にスポーツ推薦で進学する中学生たちは、その学校、地域ではそれなりに優秀な選手であり、実績も残しているのだろう。そして、強豪校に進学することを選択させた親の期待も背負っている。親の気持ちとしたら、将来はプロ選手も期待できると思っているかもしれない。そんな自分はできるという気持ちと親の期待を背負って進学した強豪校には、全国から優秀な選手が集まるのだ。自分はできると思っていた生徒も、「上には上がいる」という事を嫌というほど思い知らされてしまう。いくら努力をしても追いつくことができないという「壁」にぶち当たるのだ。そうなったときに、己のアイデンティティーを何に求めることになるのだろうか。まだまだ心の成長が不十分な10代である。己の心の置き場所を正しくできない生徒もいるだろう。それが不祥事、特に部内でのいじめに結び付く温床となっているのではないか。

 昔、有村架純が主演の映画、「ビリギャル」があった。彼女の弟は、親の想いを一身に背負い、スポーツ強豪校に進学するが、上に書いたように「壁」にぶつかって挫折してしまうのだ。彼の挫折感は相当であると思う。世の中には注目されにくいが、このようなケースは多数存在するのだろう。今回の不祥事は、そのようなケースが先鋭化して明らかになった場合ではないだろうか。

 このような温床を産み出しているのは、私立高校の経営方針にある。スポーツで生徒を集めるという経営方針だ。確かに、高校の特色化という意味では、こういう方針もあるだろう。しかし、三桁にも上る部員を集めて、一人一人の部員の成長に顧問が関わることができるのだろうか。おそらく無理だろう。今回の興国高校の不祥事についても学校サイドは、次のように述べている。

「勝敗よりもまず一人の人間としてルールを守り、規律ある人格を形成することを第一に考えておりましたが、残念ながらそのことが十分に伝わらず、一部の部員が社会のルールから逸脱する行為に及んでしまったことは、本校としましても痛恨の極みであります。飲酒行為を行った部員に対し厳正に対処することは勿論、部全体における平素からの教育指導もあらためて見直し、再発防止に全力を尽くす所存でございます」

しかし、改めなければならないのは、「部全体における平素からの教育指導」もさることながら、300名に達するという部の規模の是正だろう。こういう生徒集め=資金集めに特化している私立高校の経営方針が、このような事態を生むことになるのだ。

 来年度から私立高校の無償化が始まる。政府も私立高校の教育の質について、もっと厳しく点検することが重要だろう。果たして税金を投入する価値のある学校かどうかという問題だ。


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