中央公論6月号に、教育ジャーナリストの小林哲夫氏が「誰のための授業料無償化か」という題で寄稿していた。facebookでこの記事を褒めたたえる投稿があったので、早速購入して読んでみた。しかし、期待とは裏腹の内容だった。肩書が教育ジャーナリストなので、それぞれの関係者、公立高校、私立高校、専門家などにインタビューしたものをまとめたというものだった。何か氏自身の新しい提案でもあるのかと思ったが、残念だった。
この高校授業料無償化政策で、今後早急に対策を講じなければならないのは、
1.どのような私立高校に無償化制度を適用するのか
2.「公立」の地盤沈下をどうするのか
という2点である。
今回の無償化政策は、確実に私立高校の延命につながっている。少子化が急速に進む中で、定員に達しない私立高校にとって、税金が投入されることがどれだけありがたいか。私立高校が充実した教育を実践しているのならばよいが、例えば、体罰が横行していたり、中退者がやたら多かったり、経営者に不祥事があったりする、そんな私立高校にも税金を投入して良いとはどうしても思えない。文科省が行う大学への私学助成でも、日大や東京女子医大など、大学運営に問題があると思われるところには、改善されるまで私学助成が止められている。どの程度ならば、無償化政策の対象になるのか、その制度設計が大事ではないかと思うのだ。
もう一つは、公立高校の地盤沈下である。今年も大阪府の府立高校の約半分が定員割れをした。このブログでも何回も書いているように、大阪府では「3年連続定員割れをした高校は再編対象」で、高校が無くなるのだ。このまま何も対策をしなければ(大阪府教育庁は対策をしていると思っていても)、半数近い府立学校が無くなる危機にある。そうなると、大阪府では、一部の旧制中学の伝統を引き継ぐ高校、専門高校、エンパワーメントスクールなどは生き残るが、ボリュームゾーンの生徒たちを引き受けるのは、私立高校という事になってしまう。これで、後期中等教育は成り立つのだろうか。公教育はどうなるのだろうと思ってしまう。
この点について、慶應義塾大学の赤林教授が、面白い提案をしていた。今回の記事の唯一の収穫である。それは、(都道府県立)公立高校を市立高校化したり、公立高校の法人化を行うというものだ。これにより、公立高校が私立高校に近い運営ができるという。なるほど、「法人化」という手段があるのかと勉強になった。教授は、公立高校が私立高校と対等になることができるように、財政的な自立が必要と説く。
現在、政府は入試のデジタル選抜の導入を検討している。私は、この入試制度に私立高校も算入させることを提言したい。そうすれば、公立高校も私立高校も同日入試で、同じ土俵で生徒獲得競争ができる。かつ、公立高校5教科入試、私立高校3教科入試という点についても解消できるのではないかと考えている。
この法案が成立したのち、政治もマスコミも関心が薄れているように感じる。2026年度の導入に向けて早急な制度設計が求められるのに、一体どうなっているのかと思うのだ。導入されれば、全国で(特に都市部で)公立高校の地盤沈下が一斉に起こるだろう。この政策を提案した日本維新の会の責任はとてつもなく大きい。
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