首相は何もわかっていない

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 現在国会に提出されている給特法の改正に関して、立憲民主党・日本維新の会から修正案が提案されたことは、以前に述べた。国会では、自民、公明、立憲民主、日本維新の会、国民民主の与野党が、2029年度までに時間外在校等時間を月平均30時間程度に削減する目標や、そのために必要な措置などを法案の附則に盛り込むことで合意した。

 立憲民主党の津村啓介議員がこの修正案に沿って石破首相に質疑を行った。ここで私が取り上げたい内容は、教員の持ち帰りの仕事についてである。石破総理は、次のように答弁している。

「本来持ち帰り業務は行わないことが原則であるというのが、教育委員会に対して周知されてきたと承知しているが、その上で業務の持ち帰りが行われている実態がある場合には、校長や服務を監督する教委はその把握に努め、改善に向けて取り組む必要がある。このような取り組みが適切になされるように、私どもとして指導の徹底を図っていく」

ちょっと待てと言いたい。この答弁によると、「仕事の持ち帰りは、原則禁止されているのに、それを守らない教員が悪いのであって、守っていない教員には指導・管理をしっかりする」と言うように理解できる。もう一度言う。「ちょっと待て!」
 誰も仕事を持ち帰りたくてやっているのではない。持ち帰らなければ、明日の授業がままならない、明日の会議に出す資料が間に合わないから持ち帰ってまで仕事をしなければならないのだ。仕事を持ち帰ってはダメというなら、明らかに教育活動の質は低下する。学校の運営も停滞するだろう。総理よ、国家百年の計である教育が、それで良いのか?

 教員たちは、自分の目の前にいる子どもたちに最良の授業や教育を受けさせてやりたいと思い、日々奮闘しているのだ。教育の質より仕事を家に持ち帰るなと言うなら、日本の教育は衰退の一途を辿るだろう。一国の総理ならば、教員が時間内に十分な授業準備などができるように、環境を整備するほうが余程重要であるし、本来政府の行う仕事だろうと思う。

 私が国立大学附属学校に勤めていた時に、大学当局と論議になったこともこの点なのだ。労働基準局から是正勧告を受けた大学は、残業代は支払わなくてはならないので支払うが、その代わりに長時間勤務をしている教員たちに対して、圧力をかけてきた。私は、次のように主張した。
「朝に生徒が登校してから夕刻に下校するまで、先生たちは生徒に全力で関わっている。自分の仕事ができるのは、生徒が下校してからなのだ。学校の勤務時間は、朝の授業から生徒の下校時間まで。これでは、授業の準備、その日にあったことなどの共有、問題事象への対応、研究活動などは、時間外になってしまう。これを止めろと言われれば、教育活動の質は確実に低下してしまう。低下させずに、先生方の勤務時間を守るには、部活動を部活動指導員に委ねることだ。幸いにも本校は附属学校で、大学生の活用をしやすい環境にある。大学としても附属学校の教員から部活動を切り離すように努力してほしい。」と訴えた。この主張が、大学側は気に食わなかったようだ。教員を管理指導すれば、勤務時間は縮減すると思っている。教育の質の低下については関心が低いのだ。石破総理と同じ考え方だ。

 政府も文科省も、「教員は好きで仕事を持ち帰っている」と考えている。この認識を覆すようにしなければならない。野党議員よ、もっと現場の声に耳を傾けよ!


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