「デジタル併願制」の検討

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 4月23日の読売新聞にビッグニュースが飛び込んできた。政府が、高校入試に際し「デジタル併願制」の検討を指示したというのである。文科省ではなく、政府が、である。このデジタル併願制の内容については、下記のURLから読売新聞の記事を読んでもらえれば詳しい内容がわかるのだが、この制度の導入については、様々な賛否両論が出ることが予想される。

 まずは、賛成意見から。
 受験生・保護者にとっては、多くの自治体が公立高校受験で単願制を導入している中で、複数校に志願できるメリットがある。本命の高校、本命が無理でもこの学校なら良い、最低この学校には行きたいと、受験の方針に選択肢が増えるのだ。
 学校・教員にとってはどうだろう?大学入学共通テストのようにマークシート方式で実施するのかどうかわからないが、現在の高校入試の採点は、何日もかけて教員が採点を行い、間違いが起こらないようにかなりの時間を費やしているという都道府県が多いのではないか。大阪府では、今年からデジタル採点が導入されたが、当然、採点→点検→再点検、必要に応じて再々点検を行っている。それでもヒューマンエラーは発生し、合否に関わるようなミスが起こった場合は、校長だけでなく、教員も処分や注意が行われる。この採点作業は、1年の中で教員が最もストレスを感じる一つだ。これが、共通試験となり、合否判定をシステムで一元的に行えるとなると、教員の働き方改革に寄与すること間違いない。
と、考えるとメリットは大きいのではないかと思われる。

 反対意見はどうだろう。
 まず考えられるのは、共通テストだけで、合否を判定していくために、高校の序列化がますます進むという批判が起こるだろう。実態は別として、大阪府のスローガンも「行ける学校から行きたい学校へ」というものである。学力(と言っても狭義の意味だが)で序列化することに対する批判がこのスローガンに込められている。文科省や各都道府県の教育委員会も「高校の特色化」を打ち出し、高校の序列化に対しては抵抗の姿勢を示している。この「デジタル併願制」の導入により、序列化が推し進められることは間違いない。志願者が、点数以外を判断材料として、「高校選び」をしてくれれば、それでよいことなのだが、なかなかそうはいかないだろう。「共通テスト」という一つの尺度で学校を選ぶ限り、序列化は避けられない。と言っても、「序列化が問題だ!」と叫んでも、すでに高校は序列化されてしまっている。何をいまさら・・・という声もあるだろう。
 2点目は、高校の特色化に関係して、様々な入試制度を都道府県教委は設けていることに対して、この「デジタル併願制」はどのように対応するのかという問題だ。まず、政府の頭の中にあるのは、普通科だろう。しかし、文科省も先頭に立って進めた「高校の特色化」から、様々な学校・学科・コースが設定されている。これら全てを「デジタル併願制」に組み込むことを想定しているのだろうか。大阪府でも入試問題は、A・B・Cと難易度が3段階に分かれている。この難易度もどうなるのだろう。詳細がわからないので、今後の制度設計を待つしかない。

 さて、私の意見である。この「デジタル併願制」には、賛成である。確かに高校の序列化が進むのは良くないとは思うが、すでに実態として序列化されてしまっている。実態を追認するという事でしかない。それよりも、受験生・保護者にとっての複数出願可能という点や働き方改革という点でメリットの方が大きい。この制度を進めてほしいと思う。

 そして、さらに推し進めてほしいことがある。この「デジタル併願制」に私立高校も原則参入させることである。この「デジタル併願制」が導入されても、地方では公立高校の併願ができることにより、公立回帰が起こるかもしれないが、都市部では私立高校の先行入試のために、公立回帰は起こりにくい。というか、ほとんど回帰は起こらないだろう。それならば、現在の大学入学共通テストを多くの私立大学が活用しているように、この「デジタル併願制」に私立高校も参入させればよい。そうでなければ、公立高校回帰は起こらないだろう。そして、私立高校の参入を促すために、参入した私立高校にのみ、無償化のための税金をつぎ込むとすればよい。参入したくないなら、授業料を自前で徴収すればよいのだ。これが、この「デジタル併願制」のゴールである。私立高校からすれば、暴論のように聞こえるだろう。しかし、私立高校にだけ、後期中等教育を担わすわけにはいかない。公立高校不を復権させるためには、荒療治が必要だ。

 まずは、この「デジタル併願制」の制度設計を明らかにしてほしい。

公立高受験「単願制」見直し、複数校の志望可能に…石破首相が「デジタル併願制」検討指示
 


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