2030年から実施される次期学習指導要領の議論が始まる。12月25日文科省は中央教育審議会に次期学習指導要領の検討を諮問した。今日の読売新聞を読むと、諮問のメインは「生成AI時代の学びを探る」となっており、あたかもこの「生成AI」がメインテーマのように報じられているが、新聞の切り取り方で、情報が歪められることを改めて痛感した。そこで、今回は文科省は何を諮問したのかを紹介しながら、私の考えを述べたいと思う。
まず、文科省は現在の情勢をどのように捉えているかということだ。それを項目立てると、
*不確実性の高まりにより、子供たちは、激しい変化が止まることがない時代を生きる。
*労働市場の流動性が高まり、自らの人生の舵取りする力を身に付けることの重要性。
*内なるグローバル化やデジタル化の負の側面等による社会の分断の芽が指摘され、多様な他者と、当事者意識を持った対話により問題を発見・解決できる「持続可能な社会の創り手」を育てる必要性
*生産年齢人口が急減する中、あらゆる資源を総動員し、全ての子供が豊かな可能性を開花できるようにすることが不可欠
と指摘している。
その上で、顕在化している課題として、
①主体的に学びに向かうことができていない子供の存在
②学習指導要領の理念や趣旨の浸透が道半ば
③デジタル学習基盤の効果的な活用
が挙げられている。
そして主な審議事項として
①質の高い、深い学びを実現し、分かりやすく使いやすい学習指導要領の在り方
②多様な子供たちを包摂する柔軟な教育課程の在り方
③各教科等やその目標・内容の在り方
④教育課程の実施に伴う負担への指摘に真摯に向き合うことを含む、学習指導要領の趣旨の着実な実現のための方策
を諮問している。
読売新聞が切り取った「生成AI時代の学びを探る」というのは、諮問の内容の一部に過ぎないということだ。文科省の問題意識は、一番に掲げられている「主体的に学びに向かうことができていない子供の存在」ということだろう。つまり、次期学習指導要領は、現行の学習指導要領の路線を継承し、より進化・深化させることの必要性を求めているのである。この路線自体は、極めて正しい。そのもとで、様々な多様な子供の増加、GIGAスクール構想での「一人一台端末」の在り方、オーバーカリキュラムの問題をどのように解決するのかを個別案件として提起しているのだ。読売新聞の切り取り方とは大きく違う。
さて、私の考えだ。探究学習を推進するにあたって、最も重要なことは、探究の入り口でもある「問いを立てる」ということだ。そこで、研修やセミナーに参加して、「問いを立てられない、立てても不十分な生徒がいると思うのですが、これにはどのようなことが求められますか?」と質問したことがある。セミナーの講師の方は、「まさにそれが悩みです。どうすればよいか、教えてほしい」という回答だった。講師の方の学校は、先駆的に探究学習を行い、素晴らしい成果を挙げている学校である。そういう学校でさえ、このような課題を持つのだと改めて考えさせられた。
この課題の解決策になるかどうかわからないが、私は現行学習指導要領を進化・深化させるためには、「wellbeingをめざす生徒Agencyの育成」が重要ではないかと考えている。OECDのEducation2030が掲げたテーマだ。文科省の情勢の局面規定に示されているように、不確実性はますます高まっている。国内外を問わず、解決しなければならない課題を山積しているのだ。世の中の人が、より良い状態=wellbeingであるために、何をしなければならないのか、そしてそのためには何を学び、何を身に付けなければならないのか、ということが教育の根本に据えられなければならない。そうすれば、問題解決のために知識を身に付けるだけの教育ではなく、深い学びに結び付いていく。
わかりやすい例を示そう。医者が患者の病気を治すために、研鑽を積み上げ、新しい治療を研究することは、医学の世界では日常的に行われている。患者の病気を治す=wellbeingをめざすために、誰に強要されることもなく深い学びと研鑽を積み上げているのである。このような学びが、現行学習指導要領を進化・深化させる次期学習指導要領に求められるのではないかと考える。
以前校長をしている時、「教育と探求社」と連携して、探究学習を実施した。「教育と探求社」が提供するプログラムの中に、「困った人を助けよう」というプログラムがあった。今から振り返れば、これは「wellbeingをめざす生徒Agencyの育成」と思う。
次期学習指導要領では、Agencyをメインに取り上げてもらいたい。
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