「トランプ」は文化的ヘロイン


 これは誰の言葉か。なんと、共和党の副大統領候補のバンス氏の言葉である。この前後には、次のように語られている。
「彼が取り上げる国民の痛みには、真剣な検討と注意深い行動こそが必要なのだ。しかし、人々が安易な即効薬に頼る限り、この国は本当に必要な認識を持てない。虚勢を張る者に反省はない。『トランプ』とは、文化的なヘロインだ。だが、人々が悩んでいる問題が彼には解決できないことをある日、人々は悟る」
これは、11月4日の読売新聞国際経済の蘭に竹森氏が紹介している内容である。日本時間の5日夜からアメリカ大統領選の投票が開始される。アメリカの世論調査によれば、トランプ氏とハリス氏の支持率の差は、わずか0.1ポイント。誤差の範囲である。なぜ、これほどトランプ氏が支持されるのだろう。バンス氏のこの「文化的なヘロイン」というのは、いい得て妙である。トランプ氏の主張が、自分たちを窮地から救ってくれると感じられるのだろう。

 竹森氏は、次の事を紹介する。プリンストン大学のディートン名誉教授(2015年ノーベル経済学賞受賞)によると、米国の大卒者の平均寿命は先進国でもトップ水準であるにもかかわらず、非大卒者の平均寿命はそれを10歳下回り、他の先進国より遥かに低い水準であるという。そして、その非大卒者こそが、トランプ支持の基盤なのだ。グローバル経済、IT革命から取り残された彼らの怒りがトランプ支持に走らせるのである。
 トランプ流の解決は、国外からの輸入、特に中国からの輸入に関税をかけて、国内の製造業を守ろうとするものだ。しかし、この政策は、一時しのぎであるという。マサチューセッツ工科大学のオーター教授らの研究によると、この関税政策が米国の製造業の雇用を拡大させた効果はゼロ、またはマイナスだという。ところが、中国からの輸入による「被害」が大きかった地域で、トランプ政権がその地域の産物に関税をかけたら、トランプ支持者が急増するという。別に雇用が拡大していなくてもである。まさに、トランプ氏は「文化的ヘロイン」なのだ。

 言わずもがなの事であるが、アメリカの大統領が誰になるかは、国際情勢に大きな影響をもたらす。日本も例外ではない。今夜から始まる大統領選挙の勝敗が、こんな短絡的で、思慮の浅い白人労働者に握られていると考えると、なんとも歯がゆい気持ちになる。そして、トランプ氏が敗北したら、「不正があった」と敗北を認めない。そして、暴力に訴えようとする。まさに民主主義の危機である。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

PAGE TOP