手紙 拝啓十五の君へ


 いつも水曜日の10時から始まるNHKの「歴史探偵」を録画している。10月2日は、歴史探偵ではなく、別の番組が録画されていた。アンジェラ・アキさんが出演する「拝啓十五の君へ~30歳になった私からのメッセージ~」だった。15年前、長崎県五島列島若松中学校の生徒達が、NHKの音楽コンクールにアンジェラさんと一緒に取り組んだ。そして、15年経った今、この歌のように15歳の自分に手紙を書く番組だった。「歴史探偵は無かったんだ・・・」と思ってみていたが、正直最後まで涙が止まらなかった。
 中学校3年生からの15年って、本当に色んなことがある。あの時、15歳だった生徒達が、どんな人生を歩んだのか。それを語るとき、ほとんどの昔生徒だった人たちが、涙を流した。高校への進学、島を離れる、就職や進学、そして、挫折。そして、支えてもらった人たち、素晴らしいパートナーとの出会い、そして新しい命の誕生。この15年間って人生が凝縮されているように思った。

 実は、私は兵庫教育大学附属中学校の校長をしているときに、このアンジェラ・アキさんの「手紙・拝啓十五の君へ」を卒業式の式辞に使った。その式次の中で、私は卒業していく生徒達に、こんな風に言葉をかけた。卒業式で曲を流した後に、

 この曲は、アンジェラアキさんの「手紙 拝啓十五の君へ」という曲ですね。今、曲の1番を聞いてもらいました。この歌詞の中で、手紙を書いた「僕」は、「誰にも話せない 悩みの種があるのです」と打ち明けています。
「今 負けそうで 泣きそうで 消えてしまいそうな僕は誰の言葉を信じ歩けばいいの?ひとつしかないこの胸が何度もばらばらに割れて苦しい中で今を生きている。」
と未来の「僕」に向かって語ります。それがこの曲の一番ですね。中学時代を終えようとしているあなた達にもよく似た経験をした事があるのではないでしょうか?先生や親にも相談できない、ましてや友だちにも相談できない、自分一人で悩み続けた経験があるのではないでしょうか?
 そんな「僕」に、大人になった「僕」が語りかけます。それが曲の2番です。
大人の「僕」はこう語りかけます。
「自分とは何でどこへ向かうべきか 問い続ければ見えてくる」
そう、大人になるってこういうことかもしれません。自分が何者であるか、それを探し続けるのが青春です。自分が何者であるかは、一人では見つかりません。多くの人たちと関わることでしか見つかりません。誰かを好きになったりすることもあるでしょう。悔しさや悲しさに涙することもあるでしょう。友達と大喧嘩したり、親に歯向かったり・・・そんなことを繰り返しながら大人になっていく、それが青春時代に歩む道です。その道は、決して楽しい事ばかりではありません。苦しくて、しんどくて、辛くて、もう逃げ出したいこともあると思います。だけど、そんな時、大人の「僕」は、
「消えてしまいそうな時は自分の声を信じ歩けばいいの」
「人生の全てに意味があるから 恐れずにあなたの夢を育てて」

と今の「僕」に声をかけます。確かにそうです。自分の声を信じていこう、それは正しい。ただ、私は思うのです。「自分の声だけを信じて歩けばいいのだろうか」と。この曲に登場する「僕」はとても寂しい。弱くて、孤立していて、打ちひしがれている。あなた達の姿とは、少し違うように思います。
あなた達は、この3年間で人とつながる大切さを学び、そして人とつながる力をつけてきたと思います。そして、それを教えてくれたのは、あなたのそばにいる友達だと思います。あなた達は、強くなった。たとえ、この「僕」のように打ちひしがれても、自分で立ち上がることができる、周りに助けてと言える、そんな「生きる力」を身につけたと思います。その力を存分に発揮して、青春という荒波を乗り切ってください。

 さて、この卒業式を終えたあの中学生たちは、今は17歳、多くの生徒達が高校2年生という青春の真っただ中にいると思います。振り返るにはまだまだ早い。どんどん突き進んでほしい。自分というものを見つける旅をどんどん続けてほしいと思う。13年経てば、30歳。この時に、15歳だったあなたに、どんなことを語り掛けるか。楽しみにしています。

校長という仕事の最後に、あの中学生たちと出会えたのは、私の教師人生にとっても本当に幸せだったと思う。今日が「教師の日」で良かった。


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