真田広之、主演男優賞受賞


 真田広之氏が、「SYOGUN」でエミー賞の主演男優賞を受賞した。この作品は、主演男優賞の他にもエミー賞の各部門をほぼ総なめした。ほとんど日本語を用いた作品で、英語の字幕が入るという異例の作品での受賞だ。ここに至ったのは、真田氏の強い思いがあったと報道されている。真田氏が、ハリウッド映画に関わるようになったのは、2003年の「ラストサムライ」からだ。私もこの作品を観たが、外国人の映画監督に、こんな作品を作ってしまわれるのかという、ある種の衝撃を受けた。ご存じのように、「ラストサムライ」は、西南戦争をテーマにした映画である。近代化しようとする日本政府に対して、武士道を求めようとする古武士たちの戦いである。日本の精神性を、多くの場面で表現しており、トム・クルーズが演じるアメリカ南北戦争の将校が、武士道精神に感化され、次第に共に闘おうとする。素晴らしい映画だった。
 ただ、所々に違和感があった。まずは反乱する古武士たちが拠って立つ「ムラ」の設定である。撮影のロケーションが、確かオーストラリアかニュージーランドだったと思うのだが、日本人から見ると明らかに日本の村ではないのだ。「???」という違和感が出る。村祭りの時に、忍者に襲われるシーンが出てくるが、あの明治の時代に、忍者は存在しない。アクションシーンは面白いともいえるが、外国人向けのサービスシーンであり、リアリズムに欠けてしまうところがあった。また、セリフが英語であったために、渡辺謙が最後に語る「パーフェクト」というセリフも、日本人の死生観を表しているとはいえ、どこか違和感がある。その違和感を渡辺謙の渾身の演技が、カバーしていると言えるものだった。しかし、作品全体としては、求めようとする精神性の高さから、このような違和感は吹っ飛んでしまうほどの素晴らしい作品だった。特に、トム・クルーズと真田広之の木刀による試合シーンは、さすがとしか言いようがない。

 ただ、真田氏にとっては、「これで良いのか」という思いがあったのだろう。この映画の後、日本での名声を投げうって、ハリウッドに拠点を移し、ハリウッドで行われる日本文化の表現に関わっていった。その集大成が「SYOGUN」なのだ。日本語で語られる映画がアメリカで受け入れられたのは、何もコロナがあったからではない。その作品のリアリズムと精神性の高さが、アメリカ人の心に響いたからだ。国際舞台で真田氏が果たした役割は、計り知れない。


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