「アメリカは内戦に向かうのか」を読み終えて


 やっと、この本を読み終えた。ちょうど、トランプ氏の銃撃事件、バイデン氏の大統領選撤退、ハリス氏の立候補、そして、昨日の民主党大会と、アメリカの政治の話題に事欠かない時期に読んで、タイムリーだった。前にも述べたが、この本は、今までの内戦という内戦のデータを取り上げて、どのような場合に内戦に突入してしまうのかということを研究した本だ。なかなか、内容が濃い。

 内戦に突入する要因の一つは、アノクラシー状態であるということだ。少し、解説すると、全く民主主義的な国を+10、専制主義的な国を-10とするとき、-5~+5の範囲がアノクラシー状態という。+10の国と挙げられているカナダや日本、北欧で内戦の危機が無いように、極めて専制的な中国や北朝鮮でも内戦の危機は起こっていない。つまり、内戦が起こるのは、
 ①専制主義国家が民主主義の方向に改革されようとするとき
 ②民主主義国家が専制主義国家に移行されようとするとき
の2つのパターンがあるということになる。詳しくは述べないが、この本の中では、この二つのパターンが詳細に述べられている。そして、今、民主主義国家はどれも+10から点数を減らしていると指摘している。特にアメリカは、トランプ氏の登場により、民主主義度が低下し、現在では+5のアノクラシー状態に突入したと指摘している。

 内戦に突入するもう一つの要因は、アイデンティティに関わる「派閥化」の出現である。この「派閥化」という言葉は日本では違うニュアンスで捉えられるので、ピンとこない部分がある。私なりの解釈では、政党化に対比した言葉ではないかと考えている。つまり、同じような政策を考える人々の集まりとしての政党ではなく、アイデンティティ―を基に集まる集団の事を指している。アイデティティとは、例えば、人種、宗教、民族、などだ。よく言われるように、共和党支持者は、アメリカ白人男性労働者でキリスト教福音主義を信奉する人が多いなどである。
 こうなってくると、政策論争ではなく、集団に対する差別偏見の植え付け、敵対する候補者への個人攻撃が主となる。トランプは、ハリス氏に対して、「いつから黒人になったのか」とその出自を揶揄するようなことを平気で言う。まさに、トランプ氏が内戦に突入するきっかけをつくる象徴的存在なのだ。アメリカ議事堂突入事件を想起すれば、彼の存在の危うさはすぐにわかる。

 この本の著者であるバーバラ・ウォルター氏は、内戦突入を阻止するために、いろいろな提案をしている。その中で言われていることは、「もう一度、民主主義の市民教育を行うこと」である。市民教育は、オランダや北欧が有名であるが、確かにアメリカの市民教育はあまり聞かない。アメリカ建国そのもののアイデンティティである民主主義や自分たちの権利と義務について、再認識する必要があると訴える。

ハリス氏は、「政党や人種、性別に関わらず全ての米国人を代表し、大統領候補としての指名を受諾する」と述べた。まさに、この姿勢が内戦を阻止し、分断を克服するのだと思う。


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