第10回 国際バカロレア推進シンポジウム

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 8月18日の日曜日に、「第10回 国際バカロレア推進シンポジウム」が文部科学省IB教育推進コンソーシアム事務局の運営で開催された。朝の9時30分~15時15分までの長丁場のシンポジウムであるが、14時まで参加した。今、文科省は、200校のIB認定校をめざしており、すでにこの目標は達成したようだ。私は兵庫教育大学附属中学校の校長をしているときに、この国際バカロレア認定校路線こそが、附属中学校の今までの実践を更に鮮明化し、深化させていくと考え、IB候補校まで進めた。しかし、不幸にも学校を離れなければならない事態となり、附属中学校はIB路線を投げ捨てた。今でも、OECDが進める「生徒のエージェンシー」を育てる教育と現行の日本の学習指導要領は、親和性を持っており、その親和性を突き詰めていけば、IB教育に行きつくと考えている。
 
 さて、今回のシンポジウムである。テーマは、「生きる力と進路の多様性」-Zest for life and diversity of career path-というものである。興味があったのは、二つ。一つは、IB教育を受けた修了生(現大学生及び大学院生)の座談会と「IBの教育効果を考える」というセッションの筑波大学IB研究調査チームである。言ってみれば、前者は、IB教育の成果を測る定性的データであり、後者は定量的データと言える。
 後者の方からコメントしたい。筑波大学の研究チームは、2021年~2022年に前段となる調査を行い、2023年~2027年にかけて大々的な調査をするようだ。今回示されたデータの一部は、2021年~2022年までのものである。もう少しすると、IB教育推進コンソーシアムのwebpageにも掲載されると思うので、詳しくはそちらを見てほしい。結果から言えば、IB生とnon-IB生の間では、探究活動について大きな差異があるということ。IB生の高校2年生から3年生への伸びは著しく、高2段階でもnon-IB生を上回っていたものが、さらに差を広げる結果となっている。勉強時間については、両者とも高2から高3にかけてほぼパラレル的に伸びているが、スタートの段階でIB生の方が、勉強している時間は長いということだ。
 そこで、担当している筑波大学の教授に質問してみた。「もともとIB教育は、日本の中ではマイナーな教育です。そのマイナーな教育を選択しようとした生徒たちの資質の差はどこにあるのかという調査と、その選択を許した(または背中を押した)家庭の教育力についても調査が必要ではないですか?」と。要は、IB教育に入る入り口部分での調査であるが、今回の調査は、中身と出口に関する調査のようだ。

 私の疑問は解消されずじまいで、午後の分科会のセッションに参加した。当初は、高校の公立高校のIB校の実践を聞こうと思ったが、急遽、IB修了生との座談会に参加した。この質問は、最初にすべきと思ったので、いの一番に質問した。
「そもそもIB教育を受けようと思ったのは、なぜですか?」
という内容だ。そうすると、4人の修了生は、丁寧に自分自身の事を語ってくれた。二人は、「海外の大学をめざしていたから」というものだった。一人は現に今イギリスの大学に通っており、イギリスからZoomで参加していた。もう一人の修了生もイギリスの大学に通った後に東大の大学院で修士の勉強をしているということだ。あとの二人は、インターナショナルスクールやそれに近い学校に通っていた経験があり、日本の学校教育に学ぶと自分はどうなるのだろうという不安があったらしい。やはり、IB教育を選択するバックボーンは、なかなかマイナーである。このあたりの調査をやってもらいたいなと思う。
 この4人の話を聞いていて思うのは、やはりIB教育を受けた若者は、一味も二味も違うということだ。IBの「10の学習者像」に示された精神が、発言の端々に出てくる。これがIB教育のすごいところだろうと改めて思った。附属中学校もあのままIB路線を突き進んでいけば、とんでもない特色のある附属学校になったと思うのだが・・・。さて、定員割れを繰り返し、存続さえ危ぶまれる大学と附属学校はどうなるのだろうと思う。


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