働き方改革、二冊の本

,

 一冊は、以前にも紹介した東京学芸大学から出版された「教員需給を考えるー「教師不足」「ブラック言説」「教職の魅力」ー」である。もう一冊は、朝日新書「何が教師を壊すのかー追いつめられる先生たちのリアルー」だ。前者の本は、世の中で語られる「教師不足」「ブラック言説」「教職の魅力」について、果たして本当にそうなのかという視点からエビデンスを持って語ろうとしている本だ。例えば、「教職の魅力」については、大量採用された世代の教師の退職に伴い、採用人数が増えたため、今まで不採用で常勤講師・非常勤講師という人たちがどんどん採用されたがゆえに、教員採用の倍率が低下している。大学新卒の教員採用倍率は、変化していないという見解を述べており、教師の魅力が低下したために、教員志望者が減ったとは言えないとしている。
 一方、後者の本も同じデータを使っているが、少し見解が違う。データの裏にある様々な「証言」を掲載することにより、「教師不足」「ブラック言説」「教職の魅力」について、よりリアルに語っているのだ。この本で語られていることは、教師ならばすぐに共感できる。決して特別な例ではないのだ。どの学校でも起こっている事例を紹介している。この本の最後には、給特法にも言及しており、教育行政に関わるもの(文科省ー教育委員会ー各学校管理職)の、時短へのインセンティブを働かせない給特法は大幅改正もしくは廃止という立場である。教員の働き方改革が話題になったとき、新聞に「もし、給特法が廃止されたら、教員の残業代の支給のために、2000億円から3000億円が必要」という記事が出ていたように思う。数値は不確かだが、私は「これだけ、教員はただ働きさせられている」と校長という立場であるが、教員に語ったことがある。どちらの本が、よりこのリアルに進行する教育現場の問題に寄与しているかと言えば、明らかに後者だろう。

 この「何が教師を壊すのか」を読んで改めて思ったこと。教員の働き方改革を推進するために必要なことは、教員の数を増やす事であり、教員が担わなくても良い仕事をするために学校に人材を配置することであり、そして時短のインセンティブを促進するために、給特法を廃止することである。今まで何回となく言われてきたことを、再度確認することできた。ただ、改めて思ったことが2点ある。
 一つは、現場の管理職が、働き方改革について消極的な例があまりにも多い。あまりにも長時間労働のため、心が病みそうな教員に対する対応があまりにも冷たい。更に、就業時間の改ざんの横行である。平気で、教員に就業時間の改ざんを指示する管理職がいるのだ。私が国立大学法人の附属中学校に赴任した1年目は、教員は残業したことになっていなかった。公立学校と同じように残業の指示が管理職から出されていないので、残業していないことになっていた。「?」と思ったので、1年目の早い段階から、先生方に「大学に正確な就業時間を申請しましょう。残業手当が出ないからと言って、自分で就業時間をごまかすのは止めましょう」と提案した。少なくない教員が、たとえ残業していても定時での就業時間を申請していたのだ。公立高校に長年勤務していた私は、その当時、行政法人が民間と同じ労働基準法の適用になるということを、十分に理解していなかった。申し訳なかったと思うが、大学も理解していなかったと思う。2年目の秋に労働基準局の是正勧告が出され、残業代が払われるようになった。もっと早くに気づいていればよかったと思う。こんな姿勢で、教員の働き方改革について考えていた私にとって、この本に書かれている管理職の冷たさ、改ざんまでする保身には、激しい怒りを覚える。
 もう一つは、保護者対応である。保護者の理解を得るためにどれだけ教員が長時間労働をしているかという実態が浮かび上がっている。例えば、
〇兄弟喧嘩を止めに来てほしい
〇夫の不倫相手の子どもとは接しないようにしてほしい
〇夫婦の不仲で子どもが登校できなくなったのを何とかしてほしい
というような例がいくつも書かれている。「それは教師の仕事ではないでしょう」と思いながら、管理職が「対応してあげて」というので、遅くまで家庭訪問したり、電話で対応したりしているのだ。学校はコンビニではない。教員の働き方改革を進めるためには、保護者や地域の理解が絶対に必要だろう。教員の残業代が税金で払うようになれば、保護者が教員に要求したことで、どれだけ税金が無駄に使われているかもわかる。そして、保護者も無理難題による教員の労働時間の超過がどれだけあるかも調査できるだろう。「定額働かせ放題」の給特法ではわからないのだ。4%が10%になっても学校がコンビニ扱いされる社会的風潮は改善しない。

 この「何が教師を壊すのか」は、まずは保護者に読んでほしい。そして、教育に関わる学者に読んでほしい。そうすれば、如何に自分たちが学校というもの、教員の労働というものを知らないかわかるだろう。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

PAGE TOP