至極真っ当なことほど難しい


 教職研修6月号に、大学院で大変お世話になった押田貴久先生(兵教大准教授)が寄稿されていたので、読んでみた。テーマは、「『学校文化』アップデート!」である。そのテーマの中で、先生は、
「学校文化で形成されるローカルルールについて、その根拠は何なのか?校長の熱い思いから出る独りよがりになっていないか?そして、法令遵守はできているのか」
という視点を指摘されている。先生は、「当然のことを書いたまで」と仰るが、これがなかなか難しい。例えば、同じテーマで大阪にある建国幼少中高等学校理事長顧問を務めておられる大坪氏は、自身の大阪の池田市の中学校の勤務経験から「生徒を主語に」という視点から、学校文化の見直しを提案されている。素晴らしい視点であると思う。ただ、この「生徒を主語に」という視点が行き過ぎてしまうと、奈良教育大学付属小学校のような事態になってしまう。私もまだひらの教員だったころ、管理職に反対意見を述べる先生は、よく「生徒のためにならない」「生徒が無視されている」という視点から意見を述べられていた。その当時は、「その通りだ」と思うことも多かった。ところが、この視点が行き過ぎてしまうと、法令を遵守しなかったり、校長のマネジメントを阻害・妨害したりしてしまう。奈良教育大学付属小学校の問題は、まさにこのような問題ではなかったかと思うのだ。

 さて、学校文化の問題である。私が府立高校で管理職をしていた学校は、一校を除いて課題山積のような学校が多かった。例えば、大阪府立枚岡樟風高校は、大阪府で最初の再編対象校として総合学科としてスタートした学校であった。再編当初は、物珍しさもあり、学校の機運が上昇傾向にあったが、実業高校と普通科の学校を足しただけという実態がすぐさま明らかになってしまい、その後の10年間は長期の低落を示す事態になっていた。この学校を立て直すというのが、新校長と共に赴任した私のミッションだった。そこで、直面したのが、「総合学科は、自由だ」という学校文化だった。これは、明らかな総合学科への誤解である。確かに普通科などと比べて系列や科目の選択の幅は広い。しかし、だからといって、生徒指導が自由であるはずがない。この誤った学校文化を修正するのに、最初の労力が費やされた。しかし、校長のリーダーシップが十二分に発揮されたおかげで、1年と少しでこの「文化」の修正ができた。ここから、枚岡樟風高校の立て直しが始まったのである。

 もう一つ事例を示そう。大阪府立布施高校である。元々戦前からある伝統校であるが、典型的な中堅校である。OBに聞いても「布施高校は4年生や。高校3年間はやりたいことをやって、卒業して浪人してから進路を決める」と言われていた学校である。そんな学校を劇的に変えたのが、民間出身の校長だった。ベネッセの担当者が、「今、布施高校、大変なことになっていますよ」とデータを見せてくれたのが、関関同立の現役合格の急激な伸びだった。他の学校の校長として勤務していた私は、「すごいな!さすが民間校長やな」と思った。その時は、まさか民間校長の後任として布施高校に赴任するとは、夢にも思っていなかった。ところが、いざ赴任してみると、凄まじい民間校長の改革で、学校はズタズタになっていた。教師も生徒もシュンとしてしまい、活気が無い。職員会議で議論しようにも、先生達は意見を言わない。「言っても無駄」と思っている。
 「これはあかん!」と思ったのが、休み時間に教室を見に行った時である。布施高校の生徒は、明るく元気で高校生活を満喫しているという充実感たっぷりと評価されていた。しかし、校長である私の姿を見た途端、それまで談笑していた生徒たちが、突然自分の席に座り、沈黙するのだ。ある生徒は、参考書まで開いて勉強している姿を見せる。私は、生徒の様子を見るために、そしてできれば生徒と話をするために教室に行ったのに、話をするどころではない状態だった。小声で、「校長きたよ」と談笑している生徒に教える生徒さえいた。そのとたん、生徒の顔色が変わるのだ。これでは、布施高校の良き伝統も消えてしまうと思った。民間校長の進学校としての改革を維持・発展させつつ、なんとかこの「シュン」とした雰囲気を立て直そうと考えた。そこで、校長の姿が一番よく見える場の一つである体育祭の挨拶で、パフォーマンスを考えた。といっても、何か芸をするわけではない。最後の挨拶で、生徒を褒め称えたのだ。そして、最後に生徒とみんなで「布施高、最高!」とガッツポーズをして、挨拶を締めくくった。生徒達も、少しは学校の雰囲気が変わる校長が来たと思ってくれたのではないかと思う。この挨拶をPTA席で聞いていたPTAの役員(保護者)の方が、挨拶が終わった後に、「校長先生、ありがとう!ほんとに良かった!先生が来てくれて、生徒達も元気になる!」と涙を流しながら伝えてくれた。

学校文化をアップデートするのは、難しいし、苦しい。でもやりがいのある仕事である。

 


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