文芸春秋4月号に連載されている塩野七生さんの「日本人へ」におもしろい事が書かれてあった。塩野さんは、「経済的な繁栄と政治上の独立と精神面での自由を1千年の長きにわたって自国民に保障できた」国として、ローマ帝国とヴェネチアに興味を持ち通史を書かれた。この1千年続く要因に、
1.時代の変移に応じて脱皮することの重要性を知り、実際にそれを敢行していったこと
2.人材は流入こそすれ、流出となると末期になるまで起こらなかったこと
を挙げている。なるほどと思わせる内容だ。私はこれに付け加えて、「多様性」というものを上げたいと思う。特に宗教において多神教であったり、たとえ一神教であっても他の宗教を排斥しない柔軟性が重要であるように思う。
このように考えると、今の世界はどうであろうか。ロシアは人材が流出しているし、中東では宗教的対立が解決不可能なところまで来ている。中国もアメリカへの人材流出が激しいらしい。ロシアも中国も大国で強権的な国、権威主義的な国であるが、国としての生命力はもしかしたらそんなに長くないのかもしれない。
続けて塩野さんは言う。明治維新では人材流出が起こらなかったと。といっても他国で生きていけるほどの人材はいなかったのだと。しかし、人材はいたのだ。敗者である徳川幕府にである。明治政府の偉いところは、敗者である徳川幕府の人材を受け入れたことであると。このシステムにより、優秀な人材の流出は防ぐことができたのだ。なかなか面白い。確かにそうだ。明治政府の元勲レベルは薩長土肥だが、実務官僚には元幕臣という人がたくさんいる。
さて、今の日本である。時代の変移に応じて脱皮してきたか。多くの国民が「否」というだろう。私が校長をしているとき、プレゼンテーションでよく「失われた20年」という言葉を使ったが、もう「失われた30年」になった。この間、時代の変化に到底対応していないのが日本だ。また、人材の流出についても学界や産業界に危惧がある。多くの優秀な人材が海外の大学や海外の企業で学び、働こうとしてきた。今の日本は果たしてどうなのだろう。歴史的な視点から見れば、やはり斜陽なのだろう。
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