高校無償化の社会実験からの知見


 本通常国会で本格的に予算審議が始まった。日本維新の会が主張する所得制限のない高校無償化についても議論される。前のブログにも書いたが、すでに高校無償化を実施している大阪府や東京都は、大規模な社会実験を行っていると言えるだろう。すでに2024年度入試で、大阪府では半数の府立高校が定員割れを起こし、受験地図が激変するという事態になった。2025年度入試では、どのような状況になっているのかを示したい。

 1月16日時点で、大阪府中学校校長会が発表した進路希望調査によると、府立高校128校中68校が定員を満たしていない。53.1%が定員割れの可能性を有している。まだ、私立高校が有料であったときは、この時点で定員割れを起こしていても、私立高校の受験結果によって進路希望先は流動的であった。しかし、私立高校の無償化(所得制限あり)が実施されてから、この私立高校受験結果による流動化がほとんどなくなり、この1月時点での数値のまま推移する傾向が強くなった。「授業料が無償なら、私立高校に進学しよう、早く進学先を決めよう」ということだろう。果たして、2025年度入試はどうなるのか、府立高校の校長は戦々恐々としていることだろう。なぜなら、3年連続定員割れを起こせば、府立高校は再編対象になり、高校の継続が困難になるからだ。

 さて、社会実験から言えることを整理したい。一つ目は、明らかに私立高校に受験生が流れるということ、二つ目は同時に公立高校の衰退が起こるという事だ。東京・大阪という都市部でこのようなことが起こっているのだから、札幌、仙台、横浜、名古屋、広島、福岡などの都市部でも同様の事が発生するだろう。高校の無償化という政策が、後期中等教育の在り方を大きく変容させることになるのだ。全国で公立高校の衰退が発生するだろう。保護者にとっては、高校の授業料が無償化されることは、非常に歓迎することである。この1点からも、この政策は進めるべきだろう。その一方で、公立高校をどうするのかということも議論しなければならないのだ。

 大阪維新の会が、高校の無償化を推進したのは、「公私における切磋琢磨」という大阪府の教育振興計画の一丁目一番地による。「公立高校と私立高校が互いに切磋琢磨することで、高校教育の質の向上を図る」というのが、大義名分である。しかし、実際は公立高校と私立高校の生徒獲得競争なのだ。少子化が加速度的に進む中で、この生徒獲得競争は激烈さを増している。現在のように私立高校の入試が先行実施されている状況では、生徒獲得競争において、私立高校が圧倒的に有利なのだ。この競争は、平等な土俵で実施されていない。これが社会実験で判明している点である。

 どうすればよいか。「私立高校に多額の税金を積み込み『半公立高校化』するなら、同日受験を行え」というのが私の持論だ。この制度を実施しなければ、公立高校は衰退の一途をたどる。日本の高校教育の主体が私立高校になるのだ。私立の経営者が、同日入試を嫌うなら今まで通りの入試を実施すればよい。その代わり税金は投入せず、授業料は有料だ。それでも生徒が獲得できる自信があれば、別日入試をすればよいだろう。

 高校の無償化は、後期中等教育の在り方を大きく変容させるというのが、社会実験から得られる知見である。その結論を踏まえ、公立高校の在り方、私立高校の在り方をどうするのかという議論を同時並行で行わなければならない。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

PAGE TOP