文科省の学校基本調査で、通信制高校に通学する生徒が30万人を超え、過去最多になったという。10人に1人の割合で通信制に通っているのだ。なぜこれほど通信制が選ばれるのか、AERAkidsに星槎大学特任教授の手島純先生がコメントを述べておられる。選ばれる理由は、教授が言われる通りだろうと思う。
https://news.yahoo.co.jp/articles/b09df5222688ad92b83864e569712d91e9b350b7
私が勤める通信制高校も、容姿・服装に関する規則はほとんどない。管理職が学校説明会で話すことを引用すると「電車に乗ることができる容姿なら何でもよい」という事である。通信制の中でもわりと授業への出席を重視する本校でも、授業は月水金の週3日だ。文科省の規則に従い、面接指導というスクーリングについては、
国語・地歴公民・数学・・・2回の出席
で良い。出席が多いのが体育・理科・英語であるが、それでも半期の授業で10回や8回だ。生徒は自分の都合に合わせて時間を組むので、 起立性調節障害のため朝に弱い生徒も十分に通学することができる。発達障がいの生徒も通学しているし、外国籍の生徒も在籍している。難しい言い方をすると、「多様な生徒を包摂する」のが、通信制高校という事だろう。
これだけ多くの生徒が通うようになった通信制にも大きな課題がある。その一つが学力である。文科省が定める高卒認定の単位取得の最低ラインが74単位だ。学習指導要領で定められた必修の教科・科目を選択することになる。
例えば、私が教えている数学では、必修科目は数学Ⅰのみである。数学Ⅰの単位を取得するためには、スクーリングに2回出席し、A4用紙で6枚分のレポートを提出することが必要だ。そしてテストに合格すればよいのだ。ということは、高校3年間で数学を勉強するために授業に出席するのは、2回で良いという事になる。
さらに、問題はレポートやテストの内容である。文科省が実施する高卒認定テストと比較すると、明らかに簡単だ。というか、簡単すぎると言って良い。全日制高校で長年数学を教えてきて、学力に課題のある高校にも勤務したが、数学のテストで語句の穴埋め問題は経験したことが無い。例えば、解の公式を記入させたり、教科書の説明を「虫食い」で出題したりするのだ。こんな数学のテストは、通信制で初めて経験した。こんな学習で、果たして「高卒です」ということができるのかという事が最大の問題である。
ただ、このような現状も通信制だけに原因があるわけではない。不登校や発達障がい、学習障がい等々、様々な理由で義務教育の学習を十分にできていないのだ。例えば、こんな生徒がいる。中学校から本校に来た生徒である。ある授業で「3-5は?」と質問をした。その生徒は、なんと指を出して数え始めたのである。こういう生徒に,sin、cos、tanを教え、2次関数を教えているのである。義務教育の積み残した「学習の借金」を通信制が担っているという事になるのだ。日本の教育の矛盾の象徴が、通信制高校に通う生徒の増加という事もできる。
2点目は、進路実現である。通信制高校には、大学進学(それも難関大学)を希望する生徒から就職希望の生徒まで、様々な生徒が存在する。しかし、卒業後に進路を決定している生徒の割合は、明らかに低い。未決定のままで卒業する生徒が多いのだ。それはなぜかというと、もともと不登校などで、人とのコミュニケーションが不得手という生徒が存在することも一因だ。
だが、通信制と全日制では、進路指導の在り方が全然違う。全日制では、主に学年全員を対象に、進路説明会や様々な進路ホームルームが必須になっている。本人が意図的に欠席しない限り、有無を言わせず受講することになる。通信制にも様々な進路に関する行事があるが、それへの参加は任意なのだ。本校で決められていることは、卒業までに必要な特別活動30時間のうち、進路に関する特別活動は、最低1時間は出席することになっているだけだ。これでは、生徒本人の進路に関する関心度合いに任されており、格差が生じるのも仕方がない。
さらに、通信制ではクラスというものが無く、個人個人が学校というものに所属している形である。という事は、全日制のように同じクラスメートからの刺激を受けることは、ほぼない。だから同世代の若者が、どのように進路を考えているかの情報をほとんど得ることがないのだ。だから、学校からの刺激を受ける・受けないを選ぶのも生徒次第、同世代からの情報を受け取る機会が無い、という状況なので、生徒本人と家庭の教育力に依存しているというのが、通信制の進路指導、キャリア教育という事になる。
以上、この2点が全日制と通信制の大きな差であり、通信制高校の課題と言えるだろう。通信制高校も乱立の時代を迎えている。今後は、この二つの課題を克服した通信制高校が生き残るのではないかと私は考えている。

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