東大出身者が多い財務官僚にはわからないだろうなと思う。財務省が15日の有識者らによる審議会で、一部の私大の教育内容を厳しく指摘し、私学助成の見直しを提唱し、教育の質の評価が必要という考えを示した。定員割れに陥っている私大の授業例として、四則演算や方程式の取り扱い(数学)、現在形と過去形の違い(英語)などを挙げた。朝日新聞のネット記事である。
確かに、大学という名の付く教育機関で、「なぜ、四則演算?方程式?現在形と過去形の区別?」と思うだろう。しかし、教育現場にいる者としては、そういうことも起こりえると十分に予想できる。なぜなら、日本の義務教育には「留年」が無いためだ。理解しているかいないか関係なく、進級するし、卒業する。「学力の借金」はどんどん増えていく。そうすれば、高校進学のときに、「ふるい」にかけられると財務官僚は思うだろう。いやいや、高校も定員割れで、学力が基準に満たなくても合格することが増えている。しかし、財務官僚は考える。
「そんな基礎学力が備わっていない生徒は、進級・卒業ができないのではないか」
確かにそうだ。そういう生徒は、卒業まで行きつくことなくドロップアウトすることが少なくない。しかし、そういう彼らにもセイフティネットがあるのだ。そのひとつが通信制高校である。通信制高校で高卒資格が取得できるのだ。そして、大学進学には、指定校推薦があるし、私立大学で定員割れがあれば、受験すれば合格する。その結果、冒頭の記事のような事態が発生するのである。
これに対して、文科省の官僚は、
「『目指すべき方向は同じ』としつつ、『定員割れしていたり、基礎的な学びを採り入れたりしている大学の教育の質が一概に低いとは言い切れず、一面的で粗い考え方だ』と指摘。『学力の成長度や進路実績なども含めた評価が必要だ』と反論した。」
と記事に書かれている。なかなか苦しい言い訳である。
欧州では、小学校段階から留年というのがある。留年しても別に不登校になるわけではなく、家庭も本人も受け入れる学校文化である。日本とは大違いだ。これは、日本の学校が、人格形成も大きな役割を担っており、クラスでの集団生活も重視されているからである。ところが、欧州では、人格形成は家庭と教会が担っており、学校は学力の向上を中心に担っているためだ。
この「学力の借金」状態は、日本の学校制度の負の部分でもある。財務官僚は、私学助成をどうするかが関心事だろうが、日本の教育の本質的な部分に踏み込んでほしいものだ。東大出の優秀な頭脳で。
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