読売新聞5月25日の社説について


 5月25日の読売新聞に「過重な業務の実態を洗い直せ」という社説が掲載された。社説の主張するところは、タイトルの意図する通り、「学校現場の過重な仕事を洗い直せ」に尽きる。詳しくは、社説を読んでほしいが、「改善に向け、まず着手すべきなのは、教員以外でもできる仕事や、重要性の低い業務を精査することだ。無駄な会議を廃止し、部活動の指導や、配布物の印刷などの事務作業は、地域の人材や民間の支援に任せるべきだ」と主張している。なるほどその通りなのだが、学校現場を知っているものからすると、少しに気に障る。もっと言えば、腹が立つ。なぜなら、無駄な仕事は、この間だいぶ削減されたからである。だから、6年前の前回調査より今回の調査結果では時間外労働時間が減少している。しかし、これ以上削減しようのないところまで来ているというのが実情ではないだろうか?
 例えば、社説にさらっと書かれている部活動支援員の配置問題。多くの教育委員会が募集をかけているが、学校の部活動を教員から切り離すまでには人が集まっていない。なぜなら、休日はさておき、平日の午後3時半ごろから5時半、6時頃まで時給1500円から2000円程度で従事してくれる人がどれだけいるかということである。正社員の人はおそらくかなり難しい。そうすると、会社勤めを終えた高齢者の方か、大学生になってくる。また、部活動指導員を派遣する会社もあるが、一つの部活動でも年間数百万というコストがかかるのである。今の各自治体の教育予算から考えると「無理!」というのが実情である。このような現状に一切触れず、「民間の支援に任せるべきだ」と言っても、何も前に進まない。また、一時期のように「子どもためなら、自分の身を犠牲にして・・・」と働きたいと思っている教員は、どんどん減っている。誤解がないように言っておくが、何も子どものために働きたくないと言っているのではなく、教員の心身が限界にきているということなのである。
 では、どうすればよいか?今文科省は、中央教育審議会に教員の長時間労働の改善に向けた諮問を行った。諮問内容は、現在4%に設定されている給与の上乗せを倍増するとか、担任手当を創設するとか、支援員を配置するとかの話らしい。果たしてこれで、働き方改革は進むのだろうか?現行の給特は、「定額働かせ放題」の悪法と言われているが、「定額働かせ」の実態は継続するのである。教員の働き方改革を改善するには、日本型学校教育の在り方を根本的に見直す必要がある。
 例えば、義務教育段階では、こんなことが起こる。子どもが学校を出ても帰宅しない。そうすると、親は学校に電話をかける。教員は学校を出たということを連絡するだろう。そうすると、親は驚き、心配する。今の日本の学校ならば、教員が地域にでて、子どもを捜索するということを行う。しかし、欧米では教師はこんなことはしない。親も捜索まで期待して学校に連絡しようとは思わない。これが、日本型学校教育と欧米型との違いだ。さすがに、高校だと通学範囲が広いので、親も子どもの捜索を学校に求めないが、義務教育段階ではそうもいかないのである。なぜなら、「教師は動いてくれなかった」と親は思い、「なんと冷たい学校」と思う可能性があるからだ。そうすると、学校と親の信頼関係にひびが入りかねない。こんな親と学校の関係性を変革しない限り、学校現場の働き方改革は進まないだろう。
 この働き方改革を一挙に進める推進エンジンが、給特法の廃止である。給特法が廃止されたら、労働基準法に基づく勤務管理が行われる。今の学校の状況のまま、労働基準法に基づいて時間外勤務を支給すれば、膨大な金額に及ぶのは目に見えている。そうすれば、教育委員会、校長・教頭も時間管理に力を注ぐだろう。法律で長時間勤務の改善が求められれば、地域や保護者の理解も得やすい。まずは、給特法の廃止の是非について、政府はきちんと議論をすべきと考える。
 と言っても、国立大学系の付属学校園は、2004年の法人移行に伴い「給特法」の対象外になった。ところが、この2年~3年の間、国立大学の附属学校園に対して労働基準局から是正勧告が出されたり、残業手当の未払いについて訴訟が起こされたりしている。どういうことだろうか?2004年から教員の勤務実態を把握し、残業があれば残業手当を払い、さらに教員が残業時間を減らすような施策を設置者としてやらなければならない。様々な問題が起こっている附属学校園を設置している大学は、この問題を20年近く放置してきたのだ。附属学校園が設置されているのは、教育系大学および教育学部である。果たして、この無策について、社会はどう考えるのだろう?これらの大学は、少なくとも先進的な教育実践を行うべき研究校であるのだから。

読売新聞社説

 


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