なんと!11月22日の読売新聞の解説欄に、塩野七生さんの記事が出ていた。私が愛読している作家の一人である。毎月文芸春秋を購読するのも、彼女の「日本人へ」が連載されているからで、同じ空間と時間を共有している彼女が、何をテーマにどう切るかを楽しみにしているのだ。彼女を初めて知ったのは、24歳で亡くなった長男からである。長男が、「この本が面白い」と学生時代に「ローマ人の物語」を紹介してくれたのだ。それから、文庫本で43巻に及ぶ「ローマ人の物語」を読みだした。西洋の歴史には、あまり詳しくない私だが、正直言ってのめり込んだ。面白い。「ローマ帝国」という名から想像する帝国経営とは違う姿が浮かび上がってくる。それは、この記事に出てくる言葉、「寛容」である。カエサルのガリア征服は、「寛容」であったが上に受け入れられたのである。この他にも「海の都の物語」「マキャベリ語録」「十字軍物語」「皇帝フリードリッヒ2世の生涯」など、数多くの本を読んだ。そこで描かれているのは、キリスト教による硬直した中世からの脱却である。特に「皇帝フリードリッヒ2世の生涯」には、そのことが濃厚に描かれている。
もう一つ、彼女の作品の特徴には、政治のプロが描かれているということだ。マキャベリもその一人、カエサルも、先のフリードリッヒも、ベネチアの総督たちも、彼女は政治のプロが好きなのである。政治という現実問題をどのように動かしていくのか、そこには理念だけでは足りないものがある。冷徹な決断も必要なのだ。そんな彼女が気になるのが大久保利通である。さもありなんである。西郷と幼馴染であるにも関わらず、政敵となり、西南戦争で西郷を死に追いやった大久保は、評判が悪い。しかし、忍び寄る西洋列強に対して、日本の内戦を避け、如何に対抗するのか、そのことを大久保はずっと考えていたのである。このようにみると、今彼女が最も関心のあるのが、日本の安全保障であるというのは、全ての日本人が耳を傾けるべきだろう。長年イタリアに住み、海外から日本を見続けてきた彼女の眼には、「日本の安全保障が危ない」と映るのだ。平和の中でどっぷり浸かった私たちも、何となく「危機が迫っているのでは・・・」とぼんやりとした危機感を持ち始めているが、私達よりはもっと鋭い目で、彼女は日本を見つめている。
もっと多くの日本人が、彼女の言葉に耳を傾けてほしいと思う。
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