蔦重の会議の仕方


 「べらぼう」が面白い。ダイナミックに歴史が動くわけではなく、合戦シーンがあるわけでもない。しかし、江戸・吉原を巡る濃密な人間関係が、このドラマを面白くしている。言わずと知れた蔦重は、本の出版・販売を生業としている人物だ。どんな本を出版すれば売れるか、四六時中そればかり考えていると言っても過言ではない。蔦重の周りに集まる仲間たちに知恵を授けてもらうことも多い。というか、その方が多いのではないかと思うのだ。前回と今回の回で、注目される言葉があった。「そうきたか!」である。江戸庶民にインパクトを与えるための言葉、「そうきたか!」である。

 そこで、ミーティングならぬ雑談が始まるのだが、蔦重の話の進め方を見ていると、あることに気付いた。アイデアを出してくれる相手を、絶対と言っていい程否定しないのだ。何かアイデアを出すと

「そりゃ、良いですね!となると、こういうのはどうです!」
「そりゃいいね!」
「でやんしょ、いいとおもうんでさぁ!」


という感じで、話が進んでいく。この会議の仕方、現代風に言えば、ブレインストーミングではないかと思うのだ。仲間がいろいろなアイデアを出していっても、蔦重は否定しない。それどころか、それを肯定していく。認めてもらった仲間は、さらにアイデアを出していく、そして最後には「そうきたか!」がまとまるのである。理想的なブレインストーミングだ。

 ドラマを見ていると、ブレインストーミングは簡単なように見える。しかし、意外に難しいのだ。相手の意見を否定しないというこの姿勢が難しい。半年ほど前に、河内長野市の総合計画を作成する市民の会に参加した時である。まさに、総合計画に関して、いろいろアイデアを出していこうというブレインストーミングだった。ところが、司会を買って出た年長の方が、出てきた意見にいろいろと評価を下すのだ。そして、最後に説教めいたことを言い出す始末。グループの面々も段々と口数が少なくなっていく。仕方なく、「ブレインストーミングになっていませんよ」と言わざるを得なかった。本当は、言いたくなかったのだが、言わざるを得ない状況になってしまった。意外にブレインストーミングというのは難しいのである。ドラマとは言え、蔦重の会議の進め方は秀逸だ。

 ところで、6月8日の「べらぼう」、メインは恋川春町だった。エンディングでの紹介にもあるように、彼は武士である。私たちが教科書で習う武士のイメージとはまるで違う春町である。この時代の武士と町民の距離感は、誠におもしろいし、興味深い。


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