続:立命館大学実践教育学会ーエージェンシーについて


 10月16日に続いて、立命館大学実践教育学会 第7回研究大会についてである。今回、一番の楽しみにしていたのが、OECD Education2030に関わってこられた白井俊氏の話を聞くことであった。ご存じのように、OECD Education2030では、「wellbeingをめざすagencyを育てること」の重要性が提言された。wellbeingという言葉は、最近よく耳にするが、教育現場で「agency」という言葉はほとんど聞かない。まずは、OECDが、agencyをどのように考えているかを述べてみたい。

 世界の教育が、コンテンツベースからコンピテンシーベースの教育に大胆に変革され、日本の教育も現行の学習指導要領で大きくコンピテンシーベースの教育に舵を切った。OECDでは、このコンピテンシーベースの教育を「knowledge」「skill」「attitude」とまとめた。日本でも現行の学習指導要領で、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう人間性」という内容でまとめられている。この3つの要素を統合的にまとめ上げたのが、「agency」という概念である。OECDは、「agency」の定義を「変革を起こすために目標を設定し、振り返りながら責任ある行動をとる能力」と位置付けている。日本でも、様々な言葉でこの「agency」が表現されてきた。例えば、経済産業省の社会人基礎力では、「一歩踏み出す力」であり、経済界では「50cm革命」という言葉で表現された。いずれも変革を起こす力を表しており、その内実は「agency」を表していたと振り返ることができる。私が前職として勤めていた兵庫教育大学附属中学校の教育目標にも、この「agency」という概念を盛り込んだ。

「平和で人間らしさが追求できるより良い社会の実現のために、物事を多角的多面的に理解し、自分で目標を設定し、振り返り、責任をもって行動することで、社会の変化と持続可能性をもたらす新しい価値を「共創」できる子どもの育成をめざす」

太字の部分である。白井氏の講演では、OECDのそれまでの取り組みが整理され、「agency」という概念に行き着いた議論が良く理解できた。

 さて、今回新しい知見を得たのは、「wellbeing」についての理解である。「wellbeing」というと日本では、「健康」とか「幸福」いう意味で理解されているが、ここで用いられているwellbeingには、次のような意味がある。
健康
ワークバランス    ⇒学校生活と余暇のバランス(授業・部活動・宿題・塾)
教育とスキル
社会とのつながり   ⇒友人関係、先生との関係、友人や先生以外との関係(企業・大学・NPOなど)
市民社会とガバナンス ⇒学校における生徒の参画(授業、学校行事、部活動など)
環境の質       ⇒学校の環境(教室の環境、談話スペース、プライバシー)
個人の安全      ⇒いじめ・暴力、心理的安定性
主観的幸福
      ⇒学校生活の満足度・家庭生活の満足度
白井氏によると、この概念を学校に当てはめると、⇒のようなことになる。このようにwellbeingを考えると、今学校現場で行われている様々な取り組みが、「wellbeing」と密接に関係していることがわかる。現在全国的に取り組まれているルールメイキングなどは、まさに「市民社会とガバナンス」である。兵教大附属中学校でも様々な取り組みを行った。例えば、
①探究学習で加東市市長やイオン店長を招いて講演を行ったことは、「社会とのつながり」である。
②校舎の建て替えを通じて、図書室に関して生徒にアイデアを出させたことは、「市民社会とガバナンス」と共に「環境の質」に関することである。
③体育大会や文化祭を生徒会の参画により、一から構築したのも「市民社会とガバナンス」である。
④学校評価自己診断に満足度調査を実施したのは、「主観的幸福」に関する調査だった。
このように考えると、附属中学校での2年間の取り組みは、wellbeingと言う概念の下に再構築・再編成されていき、その取り組みの意義は、OECD Education2030に通じる教育実践をしていたのだと、改めて捉えなおすことができる。

 今回、白井氏の話を聞くことができて、本当に良かったと思うと同時に、再度「wellbeingをめざすagencyの育成」に向けた教育を積極的に展開できる教育に関わりたいと切に思った。


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