実は、私は国家資格キャリアコンサルタントの資格を保有している。ちょうど府立高校を退職する時に取得した。その後、この資格を直接的に役立てる機会には恵まれていないが、現在では生徒の進路指導や面接指導に役立てている。ある生徒の面接を指導して、受験結果を聞くと、「先生、練習の時と全く同じやった」などと聞くと、嬉しくなる。
ところで、国家資格キャリアコンサルタントは、5年ごとに更新が必要だ。更新のためには、8時間以上の知識講習と30時間以上の技能講習を受けなければならない。今年は更新年にあたり、3月ごろから仕事の合間を縫って更新研修を受けている。せっかく取得したライセンスなので、失効してしまうのも惜しいと思うのだ。いつかは役立てられることを願う。
更新講習の一つに、「社会正義のキャリア支援の理論と実践」という講座があったので受講してみた。キャリアコンサルタントの取得講習では、確か習わなかったように記憶している。この講習が意外に面白かった。欧州のトニー・ワッツという学者の理論である。詳しくは、「ワッツ理論」で検索してもらえると、様々なサイトがあるのでそちらを参照してほしい。
簡単に言うとこういうことだ。キャリアコンサルタントは、クライアントのキャリア実現のために、1対1でのカウンセリングを基本とする。クライアントの仕事観や人生設計、適性などを把握し、自ら歩みだすことのお手伝いをするのが仕事だ。パーソンズにしろ、シャインにしろ、スーパーにしろ、今までのキャリア支援の理論家は、このことを基本してきた。ところが、ワッツは、このクライアントへの支援を基本としながらも、それだけでは十分な支援とならないのではないかと考えたのだ。そのフレームが、次の図である。

通常のキャリアコンサルタントの仕事は①の部分になる。ところが、クライアントに代わって代弁するという②があるのだ。例えば、LGBTQの人が、どうも職場で働きにくいと感じ、同僚や上司にその気持ちを伝えられないとき、キャリアコンサルタントがクライアントの了解を得て、所属する上司などに代弁するということがこれに当たる。③の組織連携は、社内にあるセクハラ・パワハラ委員会などにクライアントと一緒に連携する取り組みであり、同様の相談が複数あるようであれば、会社自体がLGBTQへの理解が不十分として、社内研修を実施するなどが考えられる。これが④である。また、クライアントと同様の悩みを抱えている人たちは会社以外にもいるということで、クライアントをより勇気づけるためにNPOや支援団体と連携するのが⑤の取組だ。最後の⑥は、LGBTQに関する政策・法案作成などにも関与していき、世の中全体のLGBTQの理解促進を促す取り組みとなる。
②~⑥、特に⑤と⑥に関しては、一朝一夕にできるものではない。社会正義のキャリア支援は、
「自分の持ち場で、自分ができる範囲で、自分なりに、社会正義の実現に貢献する」
ということをモットーとしている。その対象となるのも、例に挙げたLGBTQ以外にも、移民、難民、外国人、シングルマザー、若年層、高齢者、障がい者、非正規労働者、生活保護者、失業者、無業者、未就職者、学校中退者、などなど、社会的弱者、マイノリティーと呼ばれる人たちを対象としているのだ。
この社会正義のキャリア支援でよく使われる言葉として、「チェンジ・エージェント」という言葉がある。日本語に訳すと、「変革の主体者」ということだ。ここまで学んで、私の頭に、「!」がきた。「これって、OECDのeducation2030が提唱している『Agency』と同じじゃないか」ということだ。この社会正義のキャリア支援もOECDのAgencyも2000年以降から議論が重ねられている。ワッツが、社会正義のキャリア支援を提唱したのは、1976年だが、2000年以降に再度注目されるようになったのだ。
教育の分野もキャリア支援の分野も「社会変革」を標榜している。それは、まさに現代がVUCAの時代で何が起こるかわからない時代だからである。そのような時代でも、人々のwell-beingをめざすために、様々な分野で社会変革を標榜するようになっているのではないかと思う。
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