検定教科書!

,

 3月22日から23日の新聞やニュースでは、検定教科書が話題になっていた。デジタル化、多様性、大谷選手、ウクライナ戦争、などなど世相を反映した内容に改定されたと報じられている。教科書は、毎年改訂されるわけではなく数年に1度の改定であるため、生徒が実際の生活で見聞き、体験することと、教科書の内容に「時差」が生じることもある。できるだけ、最新情報を掲載しようという教科書会社の意図も十分に理解できる。しかしながらである。このことばかりに捉われていると、教科書というものの本質的な役割を充分に果たすことができないのではないだろうかと思ってしまう。

 一つは、人類の英知を後世に伝えるという役割である。これを現在の学習指導要領に照らし合わせれば、学力の3要素のうちの「知識・技能」に該当する。まあ、この点については、文科省もしっかりと検定をしていると思われるので、あまり心配をしていない。が、教科書会社も教科書の本質的機能を外さないように心掛けてほしいと思う。いくら、「採用されなければ商売にならない」と言っても。

 もう一つは、学力の3要素の「思考力・判断力・表現力」を養うことに通じる「主体的・対話的で深い学び」が可能な教科書になっているかである。この点については、ニュースを見ても新聞を読んでも一切触れられていなかった。この「主体的・対話的で深い学び」のうち、特に「深い学び」は、「思考力・判断力」を養う上でとても重要である。この点における工夫がどのようになされたのかを知りたいのだが、報道では一切なかった。マスコミももう少し違う観点から、このニュース素材を切ってほしいのだが。
 昔、校長通信で教職員向けに、イギリスの歴史の教科書に触れたことがある。日本の歴史教科書に比べてかなり薄い。しかし、論理的及び批判的思考力を養う内容が満載だ。例えば、こんな事が書いてある。イギリスとアイルランドとの関係は、今でも微妙な関係で、過去にはテロ事件も勃発していた。このことの学習については、こんな記述から始まる。

「あなたがいったい何者であるかを決定づける最大の要素のひとつは、受け継がれてきた文化的遺産、すなわちあなたの歴史にあります。しかし、異なる人びとが異なる観点から同じ出来事を見たときに、はたして歴史は同じものであり続けるでしょうか?
 アイルランドは数世紀ものあいだ、大英帝国の一部をなしていました。しかし、イギリス統治は現代に至るアイルランド分裂の原因になりました。ここでは、アイルランドの歴史にとって重要な出来事のいくつかを取り上げて、双方の側がいったい何を言わんとしていたかを考えてみましょう。最後には、視聴者参加型のラジオ番組に参加し、歴史について自分の意見を述べる準備をすることができるでしょう。」


どうだろうか。こんな記述がある日本の教科書を私は見たことが無いのだが、これがイギリスの中学生が学ぶ歴史の教科書に記述されているのだ。自国の歴史を批判的に検討する思考、そういう力も必要であるとイギリスは考えているようだ。果たして、今回の検定で、このような思考力・判断力、そして論理的批判的思考力を養う力を育てる教科書が、どこまでできたのだろう。識者の見解をお願いしたい。


“検定教科書!” への1件のコメント

  1. とみぃのアバター
    とみぃ

    心ある教師なら、単元の最初に単元の出口についてレクチャーなりガイダンスなりすることと思います。
    このイギリスの教科書の引用なのでしょうか、「 」内の文章は考え深いですね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

PAGE TOP