新人とベテランの差


 今日は、私事から始めたい。15年載っているHONDAのFITが年明けに車検を迎えることになる。10月25日に車検の見積もりのためにHONDAのディーラーに行った。15年も乗っていると、さすが車検代も高い。営業マン(後でわかったが新人らしい)からは、中古の軽に乗り換えたらどうかと言われた。何車かネットで車を見せられたが、自分のこだわりが何なのかもはっきりしていない段階では決めることもできないので、車検をお願いした。ヘッドライトに曇りが入っているらしく、これで車検が通らないとプラス14万円と言われた。

 家に帰っていろいろ思案する中で、これ以上乗り続けてもコストがかかるし、車の利用は、買い物と親父が入居している老人ホームとの往復が主な事なので、この際軽に乗り換えることにした。ネットでいろいろ調べてみると、HONDAのNBOXがいろいろなサイトで1位になっていることが分かったので、これに絞って買い替える旨を営業マンに伝えた。

 ところが、自分の中にもこの営業マンに対して何か納得感が無かったのか、11月2日にHONDAのディーラーに行く前の日に、家のすぐ近くにあるHONDA U-セレクト(中古車販売専門の店)に行ってみた。すると、ちょうど狙った価格帯でNBOXの2代前のモデルで、走行距離もさほどいっていない車を紹介してもらった。一応翌日には、HONDAに行くことも決まっていたので、11月2日の1日は「商談中」ということでキープしてもらった。

 11月2日、HONDAのディーラー。若い営業マンからいろいろとNBOXを紹介してもらった。しかし、どれもピンとこない。最終的に価格帯、走行距離などで絞ったのが、京都伏見にある車だった。ところが、色が黒に近い紫。実物を見ていないので何とも言えない。ネット上の写真を見てもどうもピンとこない。しかし、前日にU-セレクトで見せてもらった車よりも10万円以上安い。「えいや!」という気持ちで「これにします」と決めた。

 しばらくすると、10年以上付き合いがあるベテランの営業マンが席に来た。「上野さん、この車に決められたみたいですが、『車に匂いあり』となっていますよ。こういう場合、前の所有者がタバコを吸っていたか、車に犬を乗せていたということがあるんですよ。2カ月から3カ月で匂いは消えてきますけど、どうします?」とアドバイスしてくれた。さすがに、匂いは勘弁してほしいと思ったので、再考することにした。

 そこでこのベテラン営業マンは、NBOXの選び方についていろいろ教えてくれた。今のモデルとひとつ前のモデルは、エンジンが同じ。二つ前のモデルになると、安全装備も不十分らしい。「選ばれるなら、ひとつ前のモデルで、走行距離が5万km以下のものが良いです」ということなので、最終的に、豊中のHONDAにある車に決めた。当初想定していた予算よりも1万円だけオーバーしたが、納得感があった。

 そこで、ここからが教育にも関わる話なのだが、この新人とベテランの営業マンの違いは何だろうかと思うのだ。新人の営業マンも私の要望に合う車を熱心に調べてくれた。「私なら、この車が推しです」と言って進めてくれるのだ。だが、もう一つ納得できなかったのは、「何が推しなのか」かがよくわからない、納得感が得られないのだ。だから、二の足を踏んでしまう。確かにこの営業マンも相手の要望を満足させるために努力をしているのだが、プロとしての知見に欠けたのだろう。
 一方、ベテランの営業マンは、知識が豊富で、経験知も多く持っている。更に車選びのポイントも教えてくれる。判断基準が明確なのだ。だから、納得感がある。そして、ネット上に現れない情報(すなわち営業ポイント以外の情報)もきちんと教えてくれる。だから、予算をオーバーしても買い手にとって納得感があるのだ。

 この話を教員に当てはめればどうなるだろう。とにかく、要望の多い保護者が主流の今の学校現場。新人教員は、親とのトラブルを防ぐために、要求をできる限り満たそうとする(それがストレスと過労と離職の原因にもなるのだが)。私も校長を務めている時に、そんな新人教員に出会った。そのことが分かったのは、2年目でクラス替えを行い、ベテラン教員が担任をした時である。ある生徒の親が、「前の先生はやってくれたのに・・・」と文句を言ってきたのだ。その内容は省くが、明らかに「過剰サービス」というものだった。
 そんな「過剰なサービス」を行っていて、子どもに良いわけがない。教育とは、社会で子どもを自分の足で歩くことができるようにする営みなのである。子どもの自立を促し、そのために自律を教える。それがプロとしての教員の矜持である。しかし、このようなことが今の保護者に通じなくなってきており、この場合の親も「前の担任はやってくれた」の一点張りで、こちらの話を聞き入れなかった。
 
 入学して1年目にベテランの教員のクラスになっていれば、こういうことも起こらなかったかもしれない。「高校生としての自立」を教えてくれたかもしれないのだ。

 ベテランと新人。その間にある知見と経験知、そして積み上げられた理論知の差が大きい。


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