成功物語よりデータ

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 12月28日やじr、今年最後の日曜日の読売新聞、「あすへの考」で教育経済学者の中室牧子氏が登場していた。教育経済学とは、「大量に観察した教育関連データの中から規則性を見出し、国や家庭が限られた予算や時間などをどう教育に配分するのが効果的かを考える」(以上、読売新聞記事)研究だ。日本では、彼女の登場により注目を浴びた新しい研究分野ではないか。

東大合格者の経験やノーベル賞受賞者の生い立ち、オリンピック選手の育ち方などが注目を浴びているが、 彼女も指摘するように、そのようなことを模倣しても再現できるとは限らない。子どもを巡る環境も遺伝子もまるで違うのだから当たり前である。しかし、そういう成功談に惹きつけられるのが日本人(もしかしたら世界の人々も?)の悪いところではないかと思うのだ。

この教育経済学で研究されている分野は、教育政策に直結しているところが大いにある。記事を読んでいると、今年政策化された高校無償化に関する記述があった。彼女が指摘するところによると、
「教育投資は、教育を受ける子ども自身の能力を伸ばすことで、将来の税収の増加や社会保障の削減につなげ、初期投資を回収できるかどうかという点も重要」
「海外の研究では、授業料だけでなく通学にかかる交通費の無償化をセットで行うかどうかが、制度の成否を決めると主張する研究もある」
「遠方にある志望校への進学をあきらめる生徒が出てくれば、無償化の効果は小さくなってしまうから」
という。なるほど、そういう観点もあるのかと感心させられた。

 ところで、今年、最もエビデンスが求められていたにもかかわらず、エビデンスに基づく決定がなされなかったのが、デジタル教材の教科書への「格上げ」ではないか。何回も言うようだが、デジタル教科書を使って学力が向上したというエビデンスが無いのだ。逆に、学力が下がったと言って、デジタル教科書から紙の教科書に戻ったデジタル先進国があるくらいである。
 彼女が言うように、政策決定に際し、「行政側が政策を実施するのに、『こう思うから』といった説明では通用せず、根拠が求められる時代になっている」のである。日本の教育の根幹を決める中央教育審議会ですら、このような状況だ。まだまだ教育経済学が発展してもらわなければならない。


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