尾木さん、給特法はどうするのですか?


 6月25日、読売新聞に1面を使った意見広告が掲載されていた。「担任の先生がいない!?今、学校が大ピンチ!」というタイトルで、「尾木ママ」こと、尾木直樹氏のインタビューが掲載されていた。掲載したのは、大阪府教職員組合である。この記事のなかでは、次のような質問が尾木氏に投げかけられている。
①教員不足の原因は何だと思われますか?
②教育実習に行って教員志望を辞めるのはどのような理由からですか?
③学校の多忙な状況は子どもたちにとってどのような影響があると思われますか?
④学校の長時間労働の解消には何が必要だと思われますか?
⑤給特法について議論がされていますが、どのように思われますか?
の5点である。尾木氏の主張を要約すると、「教員の長時間労働は解消されておらず、学校のブラック化はいまだ解決していない。だから、教員志望の若者はドンドン減少し、教員を志望する学生も教育実習に行くと、その過酷な現場から教師になることを諦める。解決するには、教員の数を増やすことだ。」となる。確かにその通りで、教員の数を増やすことである程度長時間労働は解消するだろう。
 その一方、尾木氏は給特法の問題には、その核心に触れていない。4%の上乗せでは教員の時間外勤務の現状とは乖離し、上限は労働強化につながるのではないかと指摘しながら、「ただ、学校は勤務時間以外は子どもに何かあっても対応しない、というのではいけないと思いますので、組織や体制でカバーできるよう工夫できるといいですね。」と述べている。これはどういうことだろう。「子どもに何かあれば、時間外も学校は対応しなければいけない」というのは、時と場合による。例えば、修学旅行などの宿泊を伴う行事で事件・事故が発生すれば、学校が主催する行事であるので、学校は責任を持って対応しなければならない。運動会・体育大会や文化祭での事件・事故が発生すれば、「勤務時間が来ましたので、それでは明日にしましょう」ということにはならないだろう。しかし、「子どもが(生徒が)、家に帰ってきません」と保護者から連絡があった場合はどうだろう。私が勤務していた国立行政法人の附属中学校では、すぐさま教員は思い当たるところを捜しに学校を出た。中学校の先生は、そうやってきたのだろう。私も管理職として学校に残り、情報収集と対策、発見されるまで学校に待機した。これが日本の学校の典型的な姿である。しかし、このような風土を変えない限り、「何かあれば、学校へ」という風土は変わらない。こうやって、教師は、地域や保護者の要望を真面目に受けることでドンドン仕事を増やしていたのだ。例えば、夏休み中の地域巡回や地域の祭りでの巡回活動。私も夕刻の6時ごろから夜の8時・9時頃まで巡回したことがある。この仕事も「高校生が、問題起こしているのに、なんで先生は祭りの巡回に来ないのだ?!」という地域の声から始まったのだろう。しかし、問題を起こすのは学校だけの責任か?家庭・地域・学校、すべてに何らかの原因があるだろう。それに、青少年の問題行動に対して真っ先に対応しなければならないのは、警察である。尾木氏が指摘する「組織や体制でカバーできるよう工夫できる」などと暢気なことを言っている場合ではない。学校の、そして教師の善意で担ってきた様々な役割を、家庭に、地域に、社会教育に、そして行政に適切に担ってもらわなければならないのである。
 そのためにどうするか?給特法を廃止することである。そのことにより、教員の残業手当を支給しなければならなくなり、自治体にも学校にもタイムマネジメントの考えが否応なく浸透する。時間内に仕事を仕上げる効率化が生まれ、そのような仕事をする教員が評価される。私は、教師になった2年目から子どもの保育所の送り迎えをしていた。学校の近くの保育所に預けていたとはいえ、5時半に学校を出なければならなかった。そのために、5時半までにやらなければならない仕事を仕上げる「クセ」が若いころからついていた。この仕事スタイルについては、別のところでまた触れたい。まだ「イクメン」などという言葉の欠片も無い時代の話である。
 今、文科省も自民党も、この学校現場のブラックな状況を継続させるために「4%からの更なる上乗せ」を考えているが、そんなことでは学校のブラック化は解消しないし、教員不足も解消しない。きちんと、勤務時間で終了する、勤務時間を過ぎれば残業手当が出る、そして過労死ラインは絶対に超えない職場で無ければ、若者は来ない。今、求人案内を見ると、「自分時間との両立」とか「月の労働時間10時間以内」「ほぼ定時退社」など良好な労働条件をウリにしている会社が目立つ。これは、昔のようなやりがいをウリにする「モーレツ社員」ではなく、会社時間と自分時間の両立を大切にする若者が圧倒的に多いことを示しているのだ。これは喜ばしいことである。いくら教育のやりがいを若者に訴えても、「自己犠牲してまで子どもに尽くす」と受け取られるだろう。それでは、優秀な人材は集まらない。

尾木さん、給特法は存続でいいのですか?
そして大阪府教職員組合さん、給特法廃止を訴えなくていいのですか?それでも教育労働者の権利を守る「組合」ですか?


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