大阪府立高校入試改革

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 他の自治体の方は目にすることはほぼ無いと思われるが、大阪府教育委員会の諮問機関である大阪府学校教育審議会が、入試日程の変更の改革案を素案に盛り込んだ。例年3月10日前後に実施されている公立高校の一般入試の日程を2月下旬に前倒しし、例年2月中旬に行う実技を伴う特別選抜と一本化する方針を打ち出した。理由は、読売新聞にはこのように書かれている。
「公立高の日程を早めて私立高に近い時期にすることで、早期に進路を決めたい受験生の選択肢を広げる効果が期待できる」
本当だろうか?この点については、後ほど私の意見を述べるとして、この審議会に出された資料(第一次資料)を読んでみると、新聞報道の取り上げ方とは、ずいぶん違いがある。
 審議会の資料には、次の順番になっているのだ。番号は私が付けた。
1.【高校の特色や魅力に適う選抜】
2.【高校生活充実のための選抜日程(高校生活準備期間確保)
3.【高校生活充実のための選抜日程(複数校志願の導入)】
そこで、まずは1と3から論評したいと思う。
 私が府立高校の校長をしていたころから、各府立高校はどのような生徒に受験してほしいかを示すアドミッションポリシーを示していた。受験生は、受験に際して「中学校まで取り組んできたこと、高校で取り組みたいこと」をテーマに作文を書き、その内容とアドミッションポリシーが極めて合致した生徒を優先的に合格させる制度があった。ただし、この優先的に合格させることができるのは、定員の90%から110%までのボーダーゾーンに入った生徒が対象である。この「きわめて合致する」という判断も校長を中心としたチームで判断されるのだが、私の基準は「すべてのアドミッションポリシーに合致する」ということを条件にしていた。受験を何度か経験する中で、この「きわめて合致する」生徒が、少ない数だが現れてきた。しかし、この受験生たちは、ボーダーゾーンに入る前にすでに合格ゾーンに入っており、結局「きわめて合致する」合格者をボーダーゾーンから出すことは無かった。先生方の感触も「アドミッションポリシーにきわめて合致する生徒は、受験生の上位層に多い」ということで、この制度が十分に使われ、高校の特色を打ち出すことはなかったのである。そこで、今回の改革では、各校の定員に「特色枠」を設けて、アドミッションポリシーと合致する生徒を積極的に合格させようとしているのだ。これは、諸手を挙げて賛成である。その高校が、どんな人材を欲し、どのように育て、そしてどんな人材として社会に輩出しようとしているのか、アドミッション、カリキュラム、デュプロマというこの3つのポリシーがより鮮明に生きてくるだろう。校長の学校経営手腕がますます問われる面白い制度だ。
 3は、複数校志願の導入である。これも公立高校に行きたい生徒の確保のために、導入すべきと考えていた。というより、定員割れを起こした学校にとっては、救世主になるのではないかと思う。今の制度では、定員割れを起こしてしまえば、二次募集まで待たねばならず、その頃には受験生の進路は、ほぼ決まっており、多くは私立高校を選択しているのだ。この制度の導入も大いに賛成だ。ただし、これも第2希望でもいいから行ってみたいと思わせる高校になるという、これもまた校長の経営手腕が問われる制度であることは確かである。

 さて、問題は2だ。24年度入試で多くの公立高校が定員割れとなった。原因は就学支援金制度の導入である。多くの受験生が私学専願で受験したのだ。そのため、交通手段が悪かったり(交通手段が悪い公立高校は、新設校に多い)、今まで定員割れすれすれだった学校は、軒並み定員割れとなった。原因は、私立高校に受験生が流れたことなのだ。例年私立高校の受験は、2月10日に行われる。例え、一般選抜を2月下旬に実施しても、私立高校の受験のほうが先に実施されてしまえば、結果は同じ事になるのだ。公立高校希望者の受験生の奪い合い、「公立高校のコップの中での争い」にしかならない。これでは、公立高校の定員割れは解決しないであろう。3年連続定員割れを起こせば、再編対象にする大阪府立高校にとっては、学校の存亡に関わることなのだ。
 そこで、私は提案したい。公立高校も私立高校も同日受験にすべきではないかと。就学支援金という形で、かなりの府民の税金が私立高校に流れている。このおかげで、私立高校は潰れずに済んでいる。しかし、私が勤める通信制高校には、私立高校をドロップアウトした生徒も多数来るのだ。私立:公立の比率は、正確には調査していないが、肌感覚では8:2の割合である。ドロップアウトしてくる生徒の話を聞けば聞くほど「この学校、大丈夫か?」と思う私立高校も少なくない。就学支援金という税金を得ているならば、もっと生徒の成長を真剣に考えるべきだろうと思う。
 更に、大阪府の教育振興基本計画には、「公私の切磋琢磨」が盛り込まれているのだ。公立高校と私立高校が互いに切磋琢磨して、大阪の高校教育を良くしていこうという趣旨である。これは賛成だ。ところが、切磋琢磨する「土俵」が公正、公平になっていない。今は圧倒的に公立高校は不利な立場に置かれているのだ。府民に選ばれなければ退場するというのは、公立高校だけではなく、私立高校にも当てはめるべきだろう。1と3、特に3の第2希望制度の導入も含め、公私同日入試をすべきと思う。
 しかし、これには、私立高校経営陣を納得させる政治力が必要だ。吉村知事にそこまでやる気と根性と政治力があるか。維新は公立高校をどうするつもりなのか。新しく就任した水野教育長は、公立高校の危機をどのように乗り越えようとするのか、これからの大阪の教育界から目が離せなくなるのではないだろうか。


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