大阪公立大学 入試制度改革

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 大阪公立大学のアドミッションセンターがプロジェクトコーディネーターを募集していたので、応募したが不調だった。応募多数で書類選考を実施するということだったが、書類選考で落ちてしまった。面接まで進み、私がどのように考えていたかを伝えたかったが、無念である。このブログを通じて、私が考えていたことを明らかにしたいと思う。

1.はじめにー「周回遅れ」の大阪公立大学
 本題に入る前に、述べたいことがある。大学に義務化された「3つのポリシー」、すなわちアドミッションポリシー、カリキュラムポリシー、デュプロマポリシーについてである。この制度は、2014年の12月に出された高大接続答申で、3つのポリシーの一体的な作成を法令上位置づけることが明記された。そして、2017年の省令で義務化が明記された。この動きに合わせて、大学側は入試改革をはじめ、この3つのポリシーの策定作業のための人材確保に追われた。ちょうど10年前の動きである。私が、布施高校の校長をしていた時の学校運営協議会の委員に、河合塾のシンクタンクの方をお願いしていた。その当時は、高大接続改革の話題が盛んにされていたので、大学側の動きを尋ねたところ、そのシンクタンクの方は、次のように答えた。
「この3つのポリシーへの対応のための人材確保は、ほぼ終わっています。ただ、大阪府立大学と大阪市立大学は、統合に関する話題が先行的に議論されていますので、大きく出遅れていますね。」
というものだった。大阪公立大学の動きをみると、2022年にアドミッションセンターが設立されているのである。周回遅れの状況だろう。アドミッションセンターのwebpageをみても、設立に関する目的・経緯などは掲載されているものの、中身についてはほとんど掲載されていない。また、専属のスタッフもいない。教員も兼任になっている。だから、今回のプロジェクトコーディネーターの募集になったと推察される。

2.大阪公立大学がめざす基本方向
 大阪市立大学と大阪府立大学の合併により、最大規模の公立大学が誕生した。そのことにより、11学部、1学域を要することになる。網羅していない学部と言えば、教育学部と薬学部ではないか。これだけ大きな総合大学が誕生したことにより、学長が「総合知」を掲げたことにも意味があるだろう。ただ、大阪公立大学の誕生には、極めて政治的な動きが関係している。大阪維新の会が進める府市統合である。この流れの中で、両自治体が有する様々な行政機関が統合された。その中でも最大のものが、この両大学の統合ではないだろうか。
 当時の首長は、この統合で誕生する大学に関して、「『京阪神』の一角に食い込む大学をめざす」ということを発言していた。近畿圏では、難関大学として国立大学の「京阪神」が位置づけられている。大阪市立大学も大阪府立大学も準難関大学として、「京阪神」に次ぐ位置にあるというのが、近畿圏の大学の序列状況だ。
 この序列を崩し、「京阪神」の一角に食い込むにはどうしたら良いだろうか。今まで、「京阪神」を希望していた高校生に、大阪公立大学を希望してもらわなくてはならない。そこで、入試制度を見てみよう。入試は、一般入試と特別入試に大別される。これを「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう社会性」という3つの観点から見てみると、その軽重は、以下のような=>で表される。

一般入試・・・知識・技能>>>思考力・判断力・表現力>学びに向かう社会性
特別入試・・・思考力・判断力・表現力=学びに向かう社会>>知識・技能


一般入試では、知識・技能が重視されるために、偏差値で序列化される可能性が強い。だから、「京阪神」の序列に食い込もうと思うと、特別入試で優秀な生徒を獲得することを突破口にすることが重要だ。特別入試で入学した優秀な生徒が成果を挙げることによって、偏差値で序列化される一般入試にも影響を及ぼすことになるだろう。アドミッションセンターでは、公立大学に設けられている「中期入試」に期待を寄せているが、中期入試は、一般入試に位置付けられているので、ここに依存するだけでは、「京阪神」に対抗することはできない。特別入試をどうするか、ここに大阪公立大学の突破口がある。

3.整理されていない特別入試
 大阪公立大学が現在行っている入試制度を見てみよう。以下が、その内容である。

次に神戸大学の入試制度を見てみよう。

どうだろう。大阪公立大学の特別入試は、いろいろな入試制度があり、整理されていない感がある。これは、あくまでも私の想像だが、大阪府立大学の入試制度と大阪市立大学の入試制度を合併させただけではないだろうか。この特別入試を整理する必要がある。対象になるのは、帰国生徒特別選抜、社会人特別選抜、私費外国人留学生特別選抜以外の入試制度だ。

4.「クエスト入試」の導入
 そこで、私の提案だが、「クエスト入試」というものを導入してはどうかと考えていた。理由は、以下の点にある。
(1)大学側からの視点
 多くの大学で、総合型選抜が実施されている。有名な入試は、京都工芸繊維大学の「ダビンチ入試」、お茶の水女子大の「新フンボルト入試」である。この両入試は、受験生に課題を与え、レポートの提出やプレゼンテーション、グループワークなどを通じて、まさに「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう社会性」を基準に実施されている入試である。私は、京都工芸繊維大学の「ダビンチ入試」で入学した生徒のその後の成長を、一般入試で合格した生徒との比較で調査した報告を聞いたことがある。明らかに、一般入試で合格した生徒よりダビンチ入試で合格した生徒の方が成長しているのである。
 ただ、問題がある。入試にかかる労力が、相当必要であること、そして多くの受験生を選抜することが不可能であるということだ。そこで、「クエスト入試」というものを考案した。現在高校で実施されている学習指導要領では、「探究的学び」が重視されている。「総合的な学習の時間」も「総合的な探究の時間」に変更され、先行実施する高校では、高校段階での「卒論」と位置付けて、探究学習が取り組まれている。この探究学習の成果を受験に活用するのが、「クエスト入試」だ。大学は、各学部各学科によって探究の分野を設定し、高校生は探究した内容と合致する学部・学科に応募するというものだ。「クエスト入試」は、書類選考→プレゼンテーション→口頭試問という段階で進む。大学側は、アドミッションポリシーに基づくルーブリック評価を作成し、各段階において選抜を実施するというものである。入学定員も〇〇人というように、確実に〇〇人を合格させる競争選抜ではなく、質を担保するために最大合格数〇〇人という設定が良いだろう。安易に合格者を出せば、学生の質を担保できなくなる可能性が高い。大学の入試にかかる労力についても、大学側が入試準備を全て行うダビンチ入試や新フンボルト入試ほどではない。
(2)高校生からの視点
 高校生からすれば、自分が高校の3年間をかけて探究してきたテーマで大学入試にエントリーできるわけであるから、こんな機会は滅多にない。探究的な学びで成果を挙げている生徒は、特定の分野に秀でた能力や資質を有している生徒が少なくない。一般入試を突破する力は無くても、この「クエスト入試」には、エントリーし、合格を勝ち取る可能性が出てくる。高校の探究学習で、何を探究していいのかわからないとか、探究学習に熱が入らない生徒の「なんちゃって探究」にも熱が入ることにだろう。
(3)高校側からの視点
 高校生と同じく、高校側も探究に力が入る。探究学習を苦手や興味がないと思っている教員にも、探究学習へ取り組むプレッシャーとなるだろう。特に、大阪府は探究学習で他の自治体よりも成果が出ていない。SSHでさえ、「要らない」というSSH校の教員がいると聞く。そういう高校や教員にとっても、この「クエスト入試」は、高校での探究入試に取り組む大きなきっかけとなるだろう。

5.高大連携の推進
 以上が、入試制度に関する私の提言であるが、少子化問題にも戦略的に対応していかなくてはならない。2023年の出生は72.6万人となる見通しで、18年後の大学受験を向かえる時には、大きな影響をもたらす。中期入試があるからなんとかなるという問題ではない。そこで、戦略的に推進しなければならないのが、高大連携である。私は、大阪公立大学と高校のコンソーシアムの設立を提言したい。すでに「未来の博士ラボラトリー」などの地域連携、高大連携の取り組みが実践されているが、これらの取り組みを持続可能な取り組みにするために、SSH校及び進学実績のある高校によるコンソーシアムの設立を提案したい。すでに、大阪教育大学は、大阪府立高校とコンソーシアムを結成しているが、大阪公立大学も大阪府立高校を中心にコンソーシアムを結成し、やがて近畿圏に広めることが重要であると思われる。

6.終わりに
 以上が、私が大阪公立大学のアドミッションセンター・プロジェクトコーディネーターの面接で述べようと思っていたことである。今回、書類選考での不調という結果に終わって残念である。この案を公表するのも、できれば参考にしていただければと考えたわけであるが、もし本当に参考にするならば、一言ご連絡いただければありがたい。この案の権限は、私にあると考えている。


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