国際バカロレアへの道ーその8


 学校目標を大きく変えると同時に手掛けたのが、「めざす子ども像」である。国際バカロレア(以下IB)には、「10の学習者像」という目標とする子ども像がある。この学習者像は、PYM(プライマリーイヤーズプログラム)でIBの理念をよりわかりやすく、小学校段階でも理解できるように示されたものである。その後、この学習者像が、「わかりやすい」ということで、IB全体の学習者像となった。それが以下の学習者像だ。

国際バカロレアを進めるにあたり、この「10の学習像」で良いのではないかという意見も附属中にあった。しかし、私は、今まで附属中で培ってきた子ども像のDNAも活かすべきと考えた。附属中の子ども像は以下の内容であった。

(1)生命を大切にし、自他の人格や個性を尊重し合う生徒(人格の尊重)
(2)ものごとを真剣に考え、適切に判断し、進んで行動する生徒(正しい判断力)
(3)心身を鍛え、強い意志と体力をもつ生徒(強い心と身体)
(4)豊かに感じる心をもち、表現できる生徒(感受性と表現力)
(5)たがいを信頼し、共に助け合い磨き合う生徒(信頼と協働)
(6)社会的自立を目指し、自己の能力や創造性を伸ばす生徒(自立と創造)
(7)社会に積極的に奉仕し、地域・社会の担い手としての資質を磨く生徒(社会への貢献)
(8)学びを人生や社会に生かそうとする生徒(学びに向かう力)

この内容とIBの「10の学習者像」を融合したのが、新しく策定した「兵庫教育大学附属中学校10の学習者像」である。それが以下の内容である。

                   兵庫教育大学附属中学校「10の学習像」
(1)探究し創造する人
  探究し研究するスキルを身につけ、他者との協働的な学びを行い、新しい価値を創造することをめざします。
(2)自他を認め、心を開く人
   自他の人格や個性を尊重すると共に、自己の文化を正しく受け止めると同様、 他者の文化や価値観をも正しく受け止められることをめざします。
(3)知識を習得し、考え続ける人
  知識を断片的ではなく、概念として深く理解し、批判的かつ創造的に考え続けることをめざします。
(4)正しい判断力による信念を持つ人
  公正な考えと強い正義感を持って、適切に判断し、あらゆる人々が持つ尊厳と権利を尊重することをめざします。
(5)豊かな心を持ち考察できる人
  自分の考えや経験について、豊かな心を持って深く考察し、自分自身の学びと成長を促すことをめざします。
(6)強い心を持ち挑戦する人
  心身を鍛え、強い意志と体力を持つことで、不確実な事態に対して、ひとりでまたは他者と協力して新しい考えや方法を探究することに挑戦します。
(7)互いに信頼できる人
  思いやりと共感、そして尊重の精神を持って、互いに信頼し、私たちの世界をより良くするために他者と協働することをめざします。
(8)社会に貢献する人
  平和で人間らしさを追求できるより良い社会を実現するために、社会に貢献することをめざします。
(9)協働できる人
  自信を持ち自らを創造的に表現し、他者や他の集団のものの見方に耳を傾け、新しい価値を創造するために協働することをめざします
(10)知・徳・体の調和が取れた人
  自分自身や他者の幸福にとって、知・徳・体の調和をとることが大切であることを理解することをめざします。

 令和4年度の始業式で、この学習者像を生徒に伝えた。まだまだコロナ禍の状況であったので、体育館には2年生のみ。1年生、3年生はzoomで教室からの始業式であった。私は、生徒に対してこの「10の学習者像」を紹介し、こんな質問をした。
     「いま、この10の学習像を聞いて、一番心にビビッときたのはどれかな?自分で考えて。」
3分ほど経って、
     「それじゃ、周囲の人とどの学習者像を選んだか、共有してみようか?」
というと、生徒たちは周囲の子といろいろ話し合いを始めた。「さすが附属中生!」と心の中で叫んだ。普通、始業式や終業式では、校長先生は講話をする。だから、生徒たちは話を聞くことに慣れているし、それは普通だと思っている。こんな始業式は初めてだったのではないだろうか。5分ほど共有する時間を取った後に、
     「それじゃ、自分が何を選んだか、その理由も含めて発表したい人?」
というと、手が上がる。上がらなければ指名しようと思っていたが、これもさすがの附属中生である。数人に発表してもらった。それぞれ、選んだ理由も含めて、きちんと発表する。またまた「さすが!」である。
 この流れは、アクティブラーニングの流れである。最初にきちんと個人ワークを行い、内化をきちんとさせる。それを踏まえて共有することで外化し、他の意見を聞くことにより、さらに内化を進めていくという流れである。先生方にも、クラス以上の大きな集団でも簡単にアクティブラーニングの実践はできることを知ってもらうために、こんな始業式をした。参考になっただろうか。

 いまだに、この教育目標と「10の学習者像」が使われていることをみると、意味があると附属中に関わる方々は考えているのだろう。IBをめざさないのに・・・。


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