兵どもが夢の跡

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 6月2日の読売新聞の「あすへの考」に岩本悠氏の記事が載っていた。記事に詳しく書いてあるので、繰り返すのは避けたいが、衰退し廃校の危機にあった隠岐島前高校の地域と学校をつなぐ「コーディネーター」として赴任し、見事に同校を全国から注目される高校に改革した立役者である。まだ、「探究学習」という言葉も無い時代から、生徒を地域課題に向き合わせることで、地域のリアルな課題解決に取り組んだ方だ。氏も言っているように、最初は、「あなたは何者?」扱いだったようで、かなり抵抗も強かったと聞いている。彼本人からではないが、隠岐島前高校の取り組みを勉強させてもらったことがある。
 
 さて、私の事である。私は大阪の府立高校を退職した後、兵庫教育大学附属中学校の校長として赴任した。みなさん、国立大学附属学校ってどんなイメージを持たれますか?生徒がたくさん志望して、受験生がわんさか。当然その結果、エリート化する学校とイメージしませんか?私が住んでいた大阪府でも大阪教育大学の天王寺・池田・平野とそれぞれ附属学校があり、相当偏差値が高くて、入学するにはかなり学力がいる学校です。
 兵庫教育大学附属中学校に赴任が決まって、色々と情報を集めていると、大学の事務局の人から「実は、定員割れが続いていまして・・・」という情報を得た。なんと、10数年以上定員割れが続いているのだ。当然、余程の事が無い限り、受験生は全員合格となる。様々な課題を抱えた生徒が入学してくる。地域の公立学校とほとんど変わらない学校であるとわかった。赴任して、すぐに調べたのが少子化動向だった。どのように少子化が進んでいくか、附属中学校がある北播地区の市町の人口推移を調べた。そうすると、瀬戸内海沿岸の加古川市・明石市・姫路市には人口が集中し、少子化がすぐに起きないが、北播地区の加東市・小野市・三木市・西脇市・加西市などはどんどん子どもが減っていくということがわかった。これでは、附属中学校の定員割れが克服される目途が立たない。そこで考えたことが、附属中学校の更なる魅力化とバディ制度だった。北播地区以外から生徒が入学してくる以外に附属中学校の道はないと考えた。この発想の元になったのが、岩本氏の隠岐島前高校の取組である。真に魅力ある教育を行えば、離島でも人は集まるという実践例が、私を勇気づけた。
 
 魅力化は、成功例もたくさんある国際バカロレア校(以下、IB校とする)をめざすこととした。四国の山に囲まれた地域の学校もIB校になることによって、移住者が増えていると聞いた。そして、家を離れて附属中学校に通う生徒のためのバディ制度を考えた。これは、大学の寮に中学生を入寮させ、そこでの生活や学習、そしていろいろな相談を兵教大の学生に担当してもらう制度だ。コロナ禍で、この制度が一歩も進まなかったが、「おもしろい!」と評価してくれる先生も少なくなかった。というようなことを考えていたら、一足お先に兵庫県立大学の附属中学校が、中学生対象の寮を開設したのだ。やはり考えることは同じか・・・と思った。

 兵教大附属中学校も2年で去った。IB校の候補校まで認定され、わずか2年で定員割れが克服された。しかし、私が去った後、IB校認定も断念したようだ。IB校認定に向けて、一緒に取り組もうと附属中学校に来た先生も去ったようである。まさに「兵どもが夢の跡」である。 
 


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